統治二論 後篇 社会政治の真の起源、限界及び目的に関する論文, ジョン・ロック

第十七章 簒奪について


一九七 征服を外からの簒奪と呼んでよいように、簒奪とは一種の国内での征服である。その相違は、他人に当然所有すべき権利のあるものを掠奪しなければ簒奪と言えないのだから、纂奪者が自分の側に正当の権利を持てる筈がないということである。これは簒奪である限り、ただ人の変更に止まって、支配の形態や規則の変更ではないのだ。その故は、もし纂奪者の権力が当然共同社会の合法的な君主や支配者に属すべき権力以上に及ぶ時は、それは纂奪に更に虐政が加わるからだ。

一九八 あらゆる合法的な政治社会において、統治権を帯ぶ人を指名することは政体そのものに劣らぬ程、自然且つ必須な要素を占め、この指名制度の起源は国民の手から発している。そして、無政府状態とは、等しく、全く政体を持たぬことか、あるいは絶対君主政体とすべしとの意見の一致をみても、権力を握り、絶対君主となるべき人物を指名する方法を一向定めないことである。従って、一定の政体が立てられたすべての共同社会はまた、公共の権威に与かるべき人々を指名し、彼等に権利を譲渡するための定則を備えている。そして共同社会の法律が規定した方式に則らないで、どの種類の権力を行使する人も、その共同社会の政体が依然として維持されているからとて、国民を服従さすべき権利は認められない。それは、彼が法律によって任命され、従って国民の同意を得た人ではないからである。また、かかる簒奪者及びそのいかなる後継者も、国民が同意を与える権利を得ると共に、実際に同意を与えて、従来彼によって横領されていた権力を承諾し、確認するに至るまでは、支配者たるの資格を認められないのである。