クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ

物語の結末


さて、その柱とはスクルージのベッドの柱だった。ベッドも自分のベッドなら、部屋も自分の部屋だった。これ以上ないほどにうれしいことに、今をきざむ刻も今までの埋め合わせをするように自分の刻だった。

「わしは過去、現在、そして未来に生きていきます」スクルージはベッドから飛び起きてくりかえした。「三人の精霊さまもわしとともに生きてくれるでしょう。それにジェイコブ・マーレーも、神様、それにクリスマスも褒め称えよう。ひざまずいていいましょうとも、ジェイコブや、ひざまづいてな」

スクルージはいいことをしようという気持ちにあまりにうちふるえ満たされていたので、自分の呼びかけにに声が震えて答えられないくらいだった。そして精霊との対面で激しく泣き崩れており、今でも顔がぬれていた。

「ひきはがされたりはしてないぞ」スクルージは、ベッドのカーテンを両腕にかかえ声を大きくした。「リングもなにもかも引き剥がされたりしてない。ここにある、わしもここにいる。影のできごとはあるかもしれないことで、避けようと思えば避けられるのだ。そうだ、そうできることはわかってるぞ」

スクルージの両手はその間中いそがしそうに上着をまさぐっていた。うらがえしにしてみたり上下さかさまにしてみたり、あげくには破ったり、うっちゃったりして、上着を相手にありとあらゆるどんちゃんさわぎをやらかした。

「なにがなんだかわからんな」スクルージは笑いながら一息にそういった。そしてくつしたでラオコーンを演じて見せたりした。「ふわふわした気持ちだよ。天使のように幸せに満ちてるし、子供のように陽気だ。よっぱいのように目がくるくるまわってるよ。メリークリスマス。新年あけましておめでとう、ヤッホー、イヤッホーとな」

そして居間へとなだれこむと、肩で息をしながら立ちつくしていた。

「おかゆの入った鍋だ」スクルージはふたたび飛び上がりながら、暖炉のまわりをかけまわりさけんだ。「ドアもあるぞ、ジョイコブ・マーレーの幽霊がはいってきたドアだ。現在のクリスマスの精霊がこしをおろしていた隅があそこだ。うろつきまわる亡霊をみた窓があそこだ。全部正真正銘本当のことだったんだ、実際に起こったんだ。はっはっは」

じつに、何年にもわたってこれっぽっちも笑ってなかった男にとっては、すごい笑いで、ちょっとやそっとの笑いではなかった。これからつづく長い長いすばらしい笑いを予感させるものだった。

「今日が何日かもわからんな」スクルージはひとりごちた。「精霊たちとどのくらいのときをすごしたかもわからんし、なんだったのかも皆目わからん。まるで赤ん坊にでもなったようだ。なにも気にすることはない、気にしないぞ。赤ん坊になったほうがいいくらいだ。ヤッホー、イヤッホー」

そうしていると今まで聞いたこともないようなすばらしい鐘の音でその興奮状態はやぶられた。ゴーン、カーン、ドーン、カラン、ガラン、鐘の音だ。カラン、ガラン、鐘の音だ。ドーン、カーン、ゴーン、なんてすばらしいんだ、すばらしいすぎる。

そして窓のそばまでかけていくと、窓をあけ、頭を外にだした。霧ももやもない。晴れ渡ったすっきりした気持ちのいい、喜びがふつふつとわいてくるような、きりっとした寒さの、そう、肉沸き血踊るような寒さで、朝日のかがやく日だった。雲一つないすばらしい空で、さわやかなさっぱりした空気、耳をくすぐる鐘の音。なんてすばらしいんだ、すばらしいすぎる。

「今日は何日だい」スクルージは日曜に着るよそいきの服装をした、たぶんぶらぶらしてスクルージの方を見ていた子供によびかけた。

「なんですって?」少年はおどろきはてて答えた。

「今日は何日って聞いたんだよ、ぼうや」スクルージはくりかえした。

「今日?」少年は答えた。「クリスマスに決まってるよ」

「クリスマスだ」スクルージはひとりごちた。「過ぎちゃいなかったんだ。精霊たちのことはたった一晩で起きたことだったんだ。なんでも好きなようにできるんだな。もちろんそうに違いない、もちろんできるだろうよ、やぁ、ぼうや」

「こんちわ」少年は答えを返した。

「家禽商の店を知ってるかい、あの通りの一つの向こうの通りの角にある」スクルージはたずねた。

「もちろん知ってるよ」少年は答えた。

「賢いぼうやだね」スクルージは言った。「りっぱなぼうやだ。あそこにぶらさがっていたすばらしい七面鳥が売れたかどうか知ってるかい? 小さな七面鳥じゃないぞ、あの大きいやつだ」

「ぼくくらい大きいやつだよね」少年は聞いた。

「目はしっこいぼうやだ」スクルージは言った。「おまえと話してると楽しいよ、なぁぼうや」

「まだあそこにぶらさがってるよ」少年は答えた。

「そうか」スクルージは言った。「行って買ってくるんだ」

「冗談だろ」少年はさけんだ。

「いやいや」スクルージは言った。「いたってまじめだよ。行って買ってくるんだ。そんでここへ持ってくるように言ってくれ。そうしたらどこへ持って行けばいいのか伝えるから。だれか大人をつれておいで。おまえには一シリングやろう。五分以内にもどってきたら、もう半クラウンおまけしようじゃないか」

少年は弾丸のように駆け出していった。この半分のはやさで銃を撃てるものでさえ、撃ち手としてはかなりの腕前といえよう。

「ボブ・クラチェットのところへ持っていってやろう」スクルージは両手をこすりながら、笑いをこらえきれないようにつぶやいた。「誰が持ってきたかわからんだろうな。ちびっこティムの二倍はあるぞ。ジョー・ミラーだってボブのところにこんなものを持っていくような冗談は考えまいて」

スクルージが書いた住所はきれいなものではなかったが、とにもかくにも書き上げた。そして通りに面したドアのところに降りていき、家禽商がくるのを待ち受けた。そこにたって到着をまちうけていながら、ふとドアのノッカーが目にとまった。

「生きてる限りこいつを大事にしよう」スクルージは手でそれをたたきながら声をあげた。「以前はほとんど見てないもどうぜんだったけれど。その顔ときたらどれほどまじめな顔だろう。すばらしいノッカーだ。さぁ七面鳥がきた、ヤッホー、イヤッホー。ごきげんよう、メリークリスマス」

まさに七面鳥だった。これじゃあ自分の足でたつことはできなかっただろうと思うほどだ、この鳥じゃ。たとえ立ったとしてもその足はろうそくみたいにすぐにポキンと折れてしまうだろう。

「あぁ、これじゃあとてもカムデン・タウンまでもっていけまいな」スクルージはつづけた。「馬車にのらんとな」

こういいながらも笑いつづけ、笑いながら七面鳥の支払いをして、笑いながら馬車の支払いをして、少年にも笑いながら支払いを済ませた。その笑いをとめるものは、椅子にすわって息もたえだえにただ笑い、泣くまで笑うことだった。

ひげそりというものはなかなか難しいもので、ただひげそりだけをしていてもそうだ。ひげそりにはなかなか注意が必要で、ひげそりしながらおどるなんてとんでもない。ただ今のスクルージならそうしていて鼻をそりおとしても、ただばんそうこうをはってよしとしたことだろう。

そして一張羅にきがえ、通りへとでかけていった。今の時期には街に人々があふれており、それは現在のクリスマスの精霊といっしょにみたときと同じだった。手を後ろにくんで歩いていると、スクルージはだれもが満面の笑みをうかべているように思えた。スクルージ自身もあまりにうれしさがこぼれんばかりに見えたので、3、4人の男が「ごきげんよう、だんなさん、メリークリスマス」と声をかけたくらいだった。後でスクルージもよく言ったことだが、「今まで耳にしたどんな楽しい言葉の中でも、その言葉がいちばん耳に心地よく響いたということだった」

それほどは歩かないうちに、自分の方にがっぷくのよい紳士が向かってくるのが目に入った。昨日事務所にたずねてきて、「スクルージとマーレー商店ですか」といった紳士だった。この老紳士とでくわして自分のことをみたらどう思うだろうとスクルージは胸が痛んだが、まっすぐ紳士の方へと歩いていく道がわかっていたのでそうした。

「ごきげんよう」とスクルージは歩をはやめ、紳士の両手をにぎりしめ声をかけた。「ごきげんいかがですかな。昨日は首尾良くいってるといいんですが。あなたはとてもよくしてくれました。メリークリスマス」

「スクルージさんですか」

「えぇ」とスクルージ。「わしの名前です、あんまりよく思わんことでしょうな。どうか許してください。この贈り物を受け取ってもらえますかな」とスクルージは紳士の耳へと何事かつぶやいた。

「神のご加護がありますように」紳士は息も絶え絶えになったかのようにさけんだ。「スクルージさん、本気ですか?」

「あなたさえよければね」スクルージは答えた。「ちょうどそれだけお願いします。今までためてた分もあわせてということでどうでしょう。そうお願いしてもよろしいですかな」

「えぇ、もちろんです」紳士は握手をしながら答えた。「これほどのご寄付にはなんといっていいやら」

「なにもいわんでください、お願いですから」スクルージは答えた。「また訪ねてきてください。訪ねて下さいよ」

「もちろんです」老紳士は答えた。本当にそうするつもりであることは明白だった。

「ありがとう」スクルージも答えた。「本当にありがとう。何十回でもいうよ、どうもありがとう、お幸せに」

スクルージは教会に行き、通りを歩き回り、人々がいそがしそうに行き来しているのを目にし、子供の頭をなで、物乞いにも話しかけ、家々の台所をのぞきこんだり、窓をみたり、そうしたことすべてが楽しかった。こうした散歩が、というかなにかが、これほど自分を幸せにしてくれるなどということは思いもよらないことだった。午後には足を甥の家にむけた。

何十回もドアの前をいったりきたりして、とうとう勇気をもってドアをノックした。とても大急ぎでノックしたのだ。

「ご主人は在宅かな」スクルージは対応してくれた少女にはなしかけた。素敵な少女だ、本当に。

「えぇいます」

「どこかな、お嬢さん」スクルージは話しかけた。

「食堂にいます、奥さんもいっしょです。よければ二階にご案内しましょうか」

「ありがとう、でも知りあいだからいいよ」スクルージはそういうと食堂のとびらに手をかけた。「中にいくよ」

スクルージはしずかにとびらをあけ、体をすべりこませた。二人はテーブルの方をむいていた(そしてテーブルの上はすばらしいことになっていた)。こうした若い主婦というものはいつもこういうことには神経質で、なにもかもがちゃんとしていることを見るのが好きなものなのだ。

「フレッド」スクルージは声をかけた。

びっくりぎょうてん。結婚している姪の驚いたことといったら。スクルージは姪が隅の椅子にこしかけていたのをすっかり忘れてしまっていた。そうでなければとつぜん声をかけるなんてことは決してしなかっただろう。

「誰ですお祝いの言葉を言ってくれるのは」フレッドはさけんだ。「誰がきたんだい」

「わしだよ、叔父のスクルージだよ。夕食をあずかりにきたよ。入ってもいいかい、フレッド」

入ってもいいかだって。腕をひきちぎられなかったのが幸いとでも言おうか。五分と立たないうちにすっかりくつろぐことができ、これほど心のこもった歓待はまたとはなかっただろう。姪は前に見た通りで、やってきたトッパーもそのものだった。ふっくらした娘もやってきた。みなが勢ぞろいして、すばらしいパーティだった。そしてすばらしいゲーム、すばらしき仲のよさとすばらしき幸福。

しかし翌朝はやくにスクルージは事務所にでかけていった。実に早い時間にスクルージは事務所にいた。先にきていて、ボブクラチェットが遅れてくるのをつかまえよう。それこそがまさにスクルージが望んでいたことだった。

そしてまさしくその通りにした。そう、そのとおりに。時計は9時をさした。ボブはこない。15分がすぎ、ボブはこない。まるまる18分半遅れてボブはやってきた。スクルージはドアをいっぱいにあけ、部屋にはいってくるのを見えるようにしていた。

ドアをあける前にボブは帽子をぬいだ。それはボブをあたためてくれるものだった。そしてまるで9時に追いつこうとでもしているかのようにすぐに椅子に腰掛け、ペンを走らせた。

「おはよう」スクルージはいつものがみがみ声にできるかぎり似せて言った。「今日こんな時間にくるなんてどうことだ」

「とてもすいません、ご主人さま」ボブは言った。「遅れました」

「そうだね」スクルージはくりかえした。「そうだね、遅れたね。いいからこっちへきたまえ」

「一年に一回のことです、ご主人さま」ボブは部屋から姿を現して嘆願した。「二度とくりかえしません。すこしばかり昨晩さわぎすぎたのです」

「ではどういうことか教えてやろう」スクルージは言った。「これ以上こういったことにはもう耐えられそうにないよ。そこでだ」スクルージは椅子から立ちあがり、ボブをぐいっとふたたび自分の部屋にもどるくらい胸のあたりをおしながら、そう言った。「そこでだ、わしは君の給料をあげようとおもうんだが」

ボブはふるえて、定規の方へと近づいた。それでスクルージをぶちのめして、足止めし、外にいる人たちに助けをもとめ拘束衣でも持ってきてもらおうと思ったのである。

「メリークリスマス、ボブ」スクルージは間違えようのない誠意をこめて背中をたたきそう言った。「メリークリスマス、ボブ、今までわれわれがすごしたどのクリスマスよりずっといいクリスマスだ。給料を多くしよう。それに苦しい家族についてもやれるだけのことをするようにしよう。今日の午後にでもクリスマスのお祝いのお酒をあけながらそのことについて詳しく話そうじゃないか。ボブ、火をおこしなさい。もっと石炭を買うんだ、ボブ・クラチェット」

スクルージは言葉だけではなかった。ちゃんと実行に移したし、それ以上のことをした。ちびっこティムにとっては、かれは死ぬことはなかったし、スクルージが第二の父親になった。その上、よく知っている町やその他どこの古き良き町、街、市においてもなかったようなよい友人、主人、人間になった。かれの人間のかわりようを見て笑うものもいた。しかしかれは笑うままにしておいて、そんなことには少しも気をとめなかった。というのも賢かったので、どんないいことをしようとも、はじめはこの世では笑う人がたくさんいることを知っていたからだ。それにそんな人たちはいずれにせよ盲目みたいなもので、スクルージが思うには、そうした人たちはあざ笑うことでいっそう額にしわをよせ醜い姿をさらしているのだった。スクルージは心で笑っていて、それでもって彼には十分なのだった。

それからスクルージは精霊とまじわりをもつことはなかった。でもそれからは何事にも節制した生活を送った。そして生きてる人のなかで、かれほどクリスマスをすばらしいものにするためにはどうしたらいいかとよく知っているものはいないとまで言われるようになった。どうかわれわれについても同じ事があてはまればいいんだが、われわれ全員にとって。そしてちびっこティムがいったように、神はわれわれ全員を祝福してくれる、われわれ一人一人を。

終わり
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