メイカーズ コリイ・ドクトロウ 第三部

第二十六章


準備が整うとイマジニアリングはすぐにサミーにプロトタイプを送ってきた。実際に作業をしたエンジニアが彼のオフィスまで運んできたのだ。

制作が進む数週間、彼は注意深く彼らとの友好関係を育んできた。飲みに連れだしては遠回しに彼らこそがディズニーパークの本来の姿を理解している人間であり、ディズニーの経営者層にいる俗物どもとは比べ物にならないと吹き込んだ。彼らの子供の名前を憶えたり、進んでジョークのメールを送ったりした。彼らの休憩室に立ち寄っては彼らお手製の巨大で突拍子もない何面もあるピンボールマシンで勝負を挑んで負けてみせてから最高のピンボールマシンだと褒めあげた。

今、それが報われたのだ。彼はその装置をまじまじと見つめた。パン籠くらいの大きさで色はイマジニアがゴーアウェイグリーンと呼ぶ緑色だ。角の丸いそのなめらかな箱は二人がかりで運び込まれた。

「見てください」運んできた一人が言った。彼が箱の上面を複雑なパターンで叩くと側面に隠されていたカバーがあくびでもするように開き、そこから地面に向かって半分ほどのところまで小さな階段が伸びていった。箱の中から穏やかな音楽が流れ出した。ジャズ風の、アップテンポで未来的なアレンジの星に願いをだ。

その出口から小さな人間が現れた。まるでパイプ掃除用の毛が生えた針金でできているようだ。震える足取りで三歩歩いて人形は階段を降りた。見物人を無視したまま人形は箱の周りを角の所までよろよろと歩いていく。そこまで来ると別のカバーがスライドして開き、小さな人形は箱の内部に手を伸ばして電源コードにつながったプラグを引っ張りだした。プラグを抱えたまま人形はサミーのデスクの上をうろうろとさまよい歩いた。どうやら電源コンセントを探しているようだ。

「ランダム・ウォークを使った探査アルゴリズムです」イマジニアの一人が言った。「見ててください」サミーのデスクを何周かするとその小さなロボットはデスクの縁から飛び降りて電源ケーブルにぶらさがった。ケーブルが命綱のように箱から伸びて人形はゆっくりと床に降り立った。数分後、人形は電源コンセントを見つけ出してそこにプラグをつないだ。

内部から聞こえていた音楽が止まり、ファンファーレが始まる。トランペットの音色が楽しげに響いてから……「ネットワーク接続が見つかりました」……落ち着いた楽隊音楽に変わった。電子レンジにいれたサランラップのような匂いがあたりに漂う。しばらくすると別の針金男が箱から現れて古いSF映画に出てくるロケットの底部のような形をしたプラスチックの塊を苦労して運びだした。

最初の針金男は電源ケーブルをよじ登っているところだった。デスクの上までたどり着くと人形はさらに他の部品を運びだしている仲間と合流して作業に加わった。レゴのようなかちっという音をたてながらつぎつぎに部品がはめこまれていく。デスクの上を舞台にだんだんと形ができあがっていった。一九五五年のトゥモローランドだ。月へ向かって飛ぶロケット、クロック・オブ・ザ・ワールド……。

「未来の牛を提供する全米酪農業界?」サミーはマッチボックスサイズのジオラマに付けられた真鍮製の飾り板を見て言った。ジオラマ上では後ろ足に点滴の管を付けた一頭の牛が牧草のビデオを眺めている。「ふざけてるのか?」

「まさか!」イマジニアの一人が答える。「全部、実物そのままです……アーカイブにはこれまでパークに存在したライドの3Dモデルが高品質、高解像度で収められています。これは完璧に史実に基づいて作られたものです」

カイザー・アルミニウム記念ホール、モンサント化学ホール、円筒形の模型飛行場は小さな飛行機のミニチュアつきだ。

「なんだこいつは」サミーが言った。「みんなが金を払ってこんなものを見ると思うか?」

「いいから見ててください」もう一人のイマジニアが言った。「化学ホールの屋根を外して」

サミーが屋根を外してみると小さな信じられないほど細かい所まで作りこまれたホールの内装の3Dモデルが目に飛び込んできた。ひどくくだらない展示に驚く一九五〇年代当時の服装をした小さな観客の姿まである。

「解像度一二〇〇DPIでプリントしています。この解像度だと眼球の上の瞳まで描くことができる」

作品の組み立てはまだ続いていた。サミーはモンサント化学ホールを手に取って手の上でためつすがめつした。その微細さは目を見張るものだった。全ての部品が一つに組み合わされていく様子には驚嘆すべきものがあった。

「とても壊れやすいんです」最初のイマジニアが言った。彼はサミーの手からそれを取り上げるとぎゅっと握りつぶした。気泡シートの上でオフィスチェアを動かした様な音をたてて作品が砕け、かけらがデスクの上に落ちた。

しばらくすると針金男の一人がそのかけらに気がつき、それを胸に抱きかかえて箱の中へと戻っていった。

「あれには小さな光学スキャナーが付いています……どのかけらがどの部分だったか判別してもう一度プリントするんです。このモデルが完成するまでは二時間ほどかかりますよ」

「三週間でゼロからこれ全部を組み立てたのか?」

イマジニアたちが笑い声を上げた。「いやいや……まさかそんな! 違いますよ。コードと設計の大部分はネットからとってきたものです。ほとんどは昔、ニューワークのスタートアップが開発したものかあのハリウッドのライドの変人どもが作ったものだ。私たちはただそいつをこの箱に詰め込んで、アーカイブにあった我々の古いライドのモデルをいくつか追加しただけです。たいしたことじゃない……簡単なことです!」

サミーはめまいがした。簡単だと! こいつがとんでもなくクールなのは疑いようがない。自分だったら欲しくなる。誰だってそうだ!

「好きな大きさでプリントアウトすることもできます……十分な時間、それに空間と材料さえ用意すれば実寸大の建物だって作れる」

ミニチュアサイズのトゥモローランドが出来上がろうとしていた。優美な冷たい印象の白い曲線が組み合わさり、かつてトゥモローランドにあったローラーボールが並び、一九五〇年代の服装に身を包んだ小さな人々が作り上げられている。サンドレスやサラリーマンハット、黒縁メガネ、少年たちはボーイスカウトの制服を着ている。

サミーはそれに見入った。目を見開いて彼は小さな人々の姿に目を移していった。

「いやはや。僕は今までも3Dモデルやバーチャル版ライドをいろいろ見てきたが手に持って眺めるのとは比べ物にならないな。みんなこいつのコレクションを欲しがるぞ。部屋いっぱいにこいつを並べるに違いない」

「ええっと」イマジニアの一人が言った。サミーは彼の名前を知っていたはずだが思い出せなかった。彼は人の名前を覚えるのにその名前で物語を作り上げるというひどく入り組んだ方法を使っていた。だがこの方法には難点が多い。「それについてなんですが、この材料はとても手軽なんですがあまり耐久性がないんです。照明を落として湿度調整をしっかりした部屋に保管したとしても一、二ヶ月ほどで層状に剥離してばらばらになってしまう。直射日光の当たるリビングルームに放置すれば二、三日で粉々になるでしょう」

サミーは唇をすぼめてしばらく考え込んだ。「お願いだからこの材料を改良するための独占的な方法を考えだしてくれないか。そうすれば私たちがこいつの唯一の供給源になれる」

「たぶんできるでしょう。必要な性質を持った樹脂を特定して入手することはまず間違いなくできるはずだ。そうすれば他の誰かの樹脂を使わずに済みます。競合に打ち勝つのもそう難しくは……」

「そいつを使おうとするやつがいたら訴えればいい」サミーが言った。「いやはや、君たちはいつも以上のいい働きをしてくれた。いや本当に。もし僕にその権限があれば給料を上げているところだ。まあ、そうもいかないから倉庫にある骨董品から何か持って帰ってくれ。eBayで売れば足しになるだろう。このくそったれな会社が払ってくれるボーナスと同じくらいにはなるさ」

疑わしげな目で彼らはサミーを見た。警戒しているのだ。彼は笑顔で両手を広げてみせた。「ハハッ。こいつはマジな話だよ。君ら。本当だ……何か持って帰るといい。君らの努力のたまものだ。ライドから何かひっぺがして持っていってもいい。いい稼ぎになる」

彼らは制作ノートや見積書、この仕事を任せるのに適したサプライヤーのリストが挟まった薄い書類ばさみを置いていった。あとはマーケティングの計画書が必要だ……だがそれは彼が考えていたよりもずっと大変だった。これを法務部や取締役会に披露するべきだろうか。もちろんウィーナーとその他大勢の無能な役員どもにもだ。全員をこいつの後ろに並ばせてこいつを動かして見せるべきだろうか。馬鹿げている。もしこいつを動かしてみせたらやつらは全員して自分の子飼いのプロジェクトをこいつにプリントアウトさせようと大げんかを始めるだろう。

彼は夜間配送業者のサイトをしばらくうろうろと見て回った。この装置をパークで売り、客が家に戻ってきた時に玄関前で待ち構えているようにするのにどれくらいの費用がかかるのか調べたかったのだ。考えなければならない細かな点は他にもたくさんあった。しかし結局のところこれこそが明快で最良の方法なのだ……このやり方であればパークの影響力の及ぶ範囲をまさに客のリビングルームまで広げ、毎日彼らにパークのことを思い出させることができるのだ。


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