メイカーズ コリイ・ドクトロウ 第三部

第四十五章


役員会の議長を務めたのはエルベ・ギニョールだった。サミーとは長年の付き合いだ。サンノゼから東海岸へ来た時期が一緒だったのだ。サンノゼでギニョールはeBayのエンターテイメント関係の経営をおこなっていた。二人は同時期にディズニーパークスにリクルートされ、敵対的買収や企業分割をともに乗り切り、ゴルフをしたりくだらない映画を一緒に見て夜通し過ごした。

だが議長の席に座ったギニョールはまるで別人のようだった。役員室は大量の人間工学チェアでいっぱいだった。テーブルの中央には輸入物のミネラルウォーターのボトルとディズニーキャラクターの形をした想像力豊かなカナッペの盆が並んでいる。サミーはギニョールの左に座り、ハッカーバーグは右側に座っていた。

ギニョールが会議の開始を告げると他の役員たちはおしゃべりやメールチェックを止めて期待の眼差しを向けた。ボタンが押されると扉が重々しい音をたてて閉じられ、窓のシャッターが降りていった。

「突然の招集にもかかわらず参加してくれたことに感謝します。オーガスタス・ハッカーバーグ氏についてはみなさんご存知でしょう。彼からみなさんに報告があるそうです」

ハッカーバーグは立ち上がるとみんなを見回した。機嫌が良さそうには見えない。

「ある問題が持ち上がっています……」会社の会議でよく使われる三人称受動態がサミーは大好きだった。まるで問題がそれ自体で勝手に発生したかのように聞こえる。「過去に下されたある決定が今になって私たちに牙を向いているのです」彼はDiaBとあのソースコードについて説明した。おおよそのところは起きたことを正確に述べていたがもちろんサミーに着手と出荷を勧めた自分の果たした役割についての説明は控えめなものだった。

役員たちはいくつか厳しい質問をしたがそれはサミーに向けられたものではなかった。反論して議事録に身の証を残したいという本能に駆られたが彼は黙ったままやり過ごした。一時間ほど議論したところで休憩になり、気がつくとサミーはギニョールと部屋の隅に立っていた。

「君はどう思う」サミーは彼に尋ねた。

ギニョールは険しい表情だった。「かなり困った状況だな。君もわかっているだろうが誰かが責任をとる必要があるだろう。多大な犠牲を払うことになりそうだ」

サミーは頷いた。「ああ。やつらと和解するしかない」彼は言った。「つまり……私たちは私たちの訴えを取り下げて、やつらはやつらの訴えを取り下げる……」自分と関わりのないところでそう提案されることを彼は望んでいた。しかしハッカーバーグがそれを言い出すつもりがないことは明らかだった。彼はペリーとレスターを捕えるという考えに取り憑かれていたのだ。

ギニョールが頭を左右に振った。「やつらが受け入れると思うか?」

サミーは声を落として唇を読まれないように部屋にいる他の者に背を向けた。「やつらからそう頼んでくるんじゃないかと思うんだ」

ギニョールはハッカーバーグの方にちらりと目をやり、サミーはかすかに頷いた。

ギニョールはサーモンとハマチでできたミッキーの頭を食べにサミーを残してその場を離れていった。ギニョールは他の役員の近くに歩いていくとその何人かと言葉を交わした。サミーには何をやっているのかがわかった……地盤固めだ。一緒に高額の賭け金の下品なミニチュアゴルフをやった男であることをつい忘れてしまいそうだった。

会議が再開した。誰もサミーの方を見ようとしない。みんなが見ているのはハッカーバーグだ。

「訴訟を和解に持ち込むというのはどうです?」ギニョールが言った。

ハッカーバーグの顔が紅潮した。「そんなことが可能かどうか……」

「私たちが申し立ててる訴訟を取り下げることを交換条件にして和解を申し入れたらどうです?」

ハッカーバーグの手がテーブルの縁を強く握りしめた。「それが賢い行動だとは思いませんな。これは私たちが待ちわびていたチャンスなんです……やつらを白日のもとに引き出していったい何を企んでいたのかを暴くチャンスだ。やつらが私たちから何をどうやって奪ったのかを明らかにするんです。やつらの悪事を全て暴くんです」

ギニョールが頷いた。「いいでしょう。もっともな意見です。ところで私の理解ではこのバンクスという人物のソースコードが含まれたまま出荷されたDiaBは全て個別の侵害行為となります。私たちはそれを百万台出荷している。一台あたりの潜在的な負債はどれほどになりますか?」

「裁判所の通常の判断では……」

ギニョールが静かにテーブルをノックした。「潜在的な負債はどれほどになりますか……裁判所はどれほどの額を言い渡す可能性がありますか。もし陪審員が関わった場合は? もしこれが誰かの訴訟ポートフォリオの一部になったとしたら」

ハッカーバーグが目をそらした。「個別の侵害行為あたりの上限は五十万です」

ギニョールが頷く。「それではこの侵害の最大額は五千億ドルという判断になる。そうですね?」

「厳密に言えばそうです。しかし……」

「このバンクスという人物に交換条件つきの和解を申し入れることを提案します。彼が受けた損害との相殺を条件に私たちの訴えを取り下げましょう」

「賛成です」テーブルに座る誰かが言った。物事が順調に動きだしていた。サミーは頬の内側を噛んでなんとか笑顔を押さえ込んだ。

「待ってください」ハッカーバーグが言った。「みなさん。聞いてください。侵害一件あたりの損害額が厳密には五十万ドルになり得るのは確かです。しかしことはそう単純にはいかないんです。特に我が社のような事業体ではそうです。聞いてください。その法律は私たちから盗用をおこなった人間を訴えられるように私たちが書き上げたものなんです。それが私たちに対して使われることはありえない。最悪でも私たちが支払うはめになるのは侵害行為一件あたり数百ドルというところだ。それでもまだかなりの額ですが最終的には……」

「ありがとう」ギニョールが言った。「それでは和解の申し入れに賛成の方は?」

満場一致だった……ハッカーバーグを除けばだが。


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