メイカーズ コリイ・ドクトロウ 第三部

第四十六章


サミーとハッカーバーグの再戦が果たされたのは四半期決算が発表された後のことだった。目もくらむような完璧な黒字だ。

「無礼を言うつもりはありません」彼は言った。その決算を書いたのがハッカーバーグであることも、ハッカーバーグに対して挑みかかること以上の無礼はないということもわかってはいた。「しかし私たちはビジネスの実態に向き合う必要があると思います」

ハッカーバーグのオフィスはサミーの想像……狩りの獲物の剥製や写真立てに収まった祖父母の写真が並ぶ南部の男性にありがちな書斎……とは似ても似つかなかった。まるで間に合わせのオフィスのようだ。高機能デスク、法律書の並ぶ作り付けの本棚、そしてまっすぐな背もたれがついたいすを除けばほとんどものがない。禁欲的かつ簡素でどんな重厚な書斎も敵わないほど威圧的だった。

「数字は嘘をつきません。DiaBは私たちに大きな利益をもたらしている。そのほとんどはプラットフォームからのもので材料樹脂の売上や入場客の増加によるものではありません。私たちが金を稼げたのは他の人間が私たちの道具を使う方法を見つけたからです。これが最も成長力が高い収入源だ。このままいけば最終的に私たちはテーマパークを副業にしているDiaBの会社になってしまうでしょう。

ここまでがいいニュースです。悪いニュースもあります。あのショッピングモール跡地の変わり者たちは私たちに狙いを定めている。私たちが鍵をかけるよりも早くそれをこじ開けていっている。だが見方を変えれば毎回、彼らはDiaBに新機能を追加してDiaBがもっと魅力的になる手助けをしています。それによって私たちはプラットフォームへのアクセス権を広告主に売りやすくなっています」

ハッカーバーグが両手を上げた。「サミュエル。話はもう十分だ。君の仕事は私たちの新しい飯の種を見つけ出して活動分野を広げていくこと、私の仕事は私たちの法的責任を限定してブランドと投資家を守ることだ。まるで君は自分の仕事ができるように私に今の仕事をやめろと言っているように聞こえるんだが」

サミーは落ち着かなさげに体をよじらせた。「まさか。そんなことは言っていません。私たちは二人ともこのビジネスを守りたいと思ってます。彼らにフリーライドさせてやる必要があるとは言っていません。私が言っているのは彼らを訴えるのは私たちのビジネスのためにならないということです。訴えれば金も信用も失う……自分の仕事に集中することもできない」

ハッカーバーグは背もたれに持たれると冷ややかにサミーの目を見た。「それでどんな代案を提案すると?」

それはある朝、シャワーを浴びながら次の四半期ボーナスがいくらになるかを計算している時にサミーの頭に浮かんだアイデアだった。すばらしいアイデア、今までにない発想だ。誰も思いつくことさえできない質問への正しい答えだ。完璧な答えに思えたし、それは今でも変わらなかった……。

「彼らを買収するべきだと思います」

ハッカーバーグの薄い陰気な笑みに彼は縮み上がった。

サミーは両手を上げた。「さあこれを見てください。いくつかグラフを書いてきました。彼らが何を手に入れるのか。私たちは彼らから何を手に入れられるのか。それに次の五四半期の成長見積書です。これはシャワーを浴びながら気まぐれに思いついたアイデアじゃありません。十分考慮に値するものです」彼は円グラフでいっぱいの書類の束を手渡した。

ハッカーバーグはそれを自分のデスクの中央に正確にデスクの縁と揃えて置いた。最初の五ページをめくると再びその山を揃える。

「君はここでたくさんの仕事をやり遂げてきた。サミュエル。それはよくわかっている」

まっすぐな背もたれがついたいすから立ち上がると彼は親指と人差し指でサミーの書類を持ち上げ壁際に歩み寄った。そこにはシュレッダーが置いてあった。投入口が大きく開き、ハードカバーの本を丸々一冊(あるいはハードディスクドライブでも)投げ込めるようなやつだ。静かにハッカーバーグはサミーの書類をシュレッダーに投入した。律儀にペーパークリップで留められた角を親指と人差指で摘んだまま他の部分が切り刻まれるのを待って、それから残った角を投げ込む。

「君にコンピューターを調べさせろとは頼まない」いすに座り直しながら彼が言った。「だが他のデータのバックアップをとった上で君がハードディスクドライブをIT部に送り届けて完全に消去してくれることを期待する。こいつに関してどんな記録も残したくない。以上だ。今日の仕事が終わるまでにこいつに関しては済ませておきたい」

サミーは口をぽかんと開けていた。彼はいったんそれを閉じたが、またその口が開いていく。

不意にハッカーバーグが立ち上がり、いすが彼の背後で倒れた。

「何か言え。わかったのか? 一言も無しとは能なしのまぬけが! 今、我々はあいつらと訴訟の真っ最中なんだぞ。当然、貴様も知っているだろう。こうなったのは貴様の失敗が原因なんだからな。わかっているだろうな。会社全体が危機にさらされているんだぞ。我々があのまぬけどもを買収しようと考えていたと陪審員にばれたらどうなると思っているんだ? 我々が裁判を起こしているのは提示価格を低くするための下準備だと陪審員に判断されたらどうする。やつらややつらのお仲間連中へ提示する価格を下げようとする策略だと思われたら……」その言葉は皮肉たっぷりだった。「そうなったら何が起きると思っている? 五歳児でももう少しましなこと考えるぞ。まったくなんたることだ。ペイジ。セキュリティーを呼んで貴様を出口までエスコートさせなきゃならんようだな。

回れ右して出て行け。廊下で泣きべそでもかくがいい。一秒たりとも私のオフィスにいることは許さん。午後二時までにコンピューターをIT部に渡すんだ。後で確認する。貴様といっしょにこの件に関わった他の者、この情報のコピーを持っている者も同じだ。さあ、行け」サミーは根が生えたようにその場所に立ち尽くした。「出て行くんだ。まぬけでちびな犬の糞め。私の視界から出て行け!」

サミーは深く息を吸った。そんな風な口を僕にきける立場かとでも言おうかと思ったが、それはたぶんハッカーバーグが彼に言いたいことだろう。めまいと軽い吐き気を感じ、彼はゆっくりとした足取りでオフィスを後にした。

廊下に立っていると体が震え始めた。エレベーターのボタンを叩きながら彼は背中にハッカーバーグの強烈ににじみだす燃えるような視線を感じた。不意に彼は向きを変えると階段へと続く扉を荒っぽく開け放ち、扉が大きな音をたてて壁にぶつかった。彼は絶望的な閉所恐怖症の衝動に襲われながら階段を駆け下りた。とにかく外に出て新鮮な空気を吸いたかった。

駆け下りながら足をもつれさせた彼は階段を何段か踏み外して壁へとぶつかった。壁に叩きつけられた彼の頬が冷たい軽量コンクリートに押しつけられる。頬に傷ができたようでその痛みが彼を我に返らせた。

あまりに馬鹿げている。自分は正しい答えを持っているのだ。間違っているのはハッカーバーグだ。ハッカーバーグはこの会社の経営を担っているわけではない。確かにやつの承認なしで何かをおこなうのは難しいが不可能というわけではない。もちろんハッカーバーグに黙って役員会で事を諮れば職を失うことになるだろう。

上等だ。

自分が職を失うことをたいして気にしていないことに彼は気がついた。なんということだ。職を失うことを考えると胸が締め付けられ、ダンボールハウスで暮らす自分の姿が眼前に浮かぶというのにそれ以上にかまうものかという気持ちが強かった。まるでくそったれな絶叫マシンだな……そのたとえに彼はにやりと笑った。見込みがうまく行けば最期には頂点に辿り着き、見込みが外れればどん底に落ちる。これまでのキャリアの半分の期間を彼は想像力のない人間に威張り散らすことで、もう半分の期間を間違った自分の見通しにパニックになることで過ごしてきた。ペリーとレスターのことを、そしてあのボストンの夜のことを彼は思い出した。彼はあのライドをぶち壊そうとしたがパーティーは変わらずに続けられた。あのおかしなバラック街で彼らは何かを手に入れたのだ。何か純粋で喜びに満ちたものを。それは彼がいつの日か手に入れたいと思い続け、しかし決して手に入れることのできなかったもの、仲間意識だった。

もしそれこそが彼の夢みる仕事だとすれば失業が何ほどのものだろう?

役員会を開くのだ。データを消すことなどない。断固とした決意で顔をあげて彼は自分のオフィスに向かって早足に戻った。最後の抵抗をしてやるのだ。わくわくしてくるじゃないか?

小さなゴルフカートを運転して舞台裏の通路を走っていった彼が警備員の一団を見つけたのは自分のオフィスがはいる建物の近くまで来たときだった。軽装のディズニー警察の制服に身を包んだ三人はレンジャーハットをかぶり、警戒するようにあたりを見回している。彼がデータ削除の指示に従ったことを確認するためにハッカーバーグが送り込んだに違いなかった。

警備員に見つかる前にゴルフカートを急停車させると彼は通路を逆走した。ファイルをどこかハッカーバーグの手が届かない場所に移す必要がある。側道を引き返しながら彼は猛烈な勢いで考えた。

ポリネシアンホテルへの順路を示す標識が彼の頭に浮かんだ。通路を猛スピードで駆け抜けると彼はゴルフカートを停めた。カートから下りながら彼は社員バッジをはずし、シャツの裾をズボンの外に出した。これで汗をかきながら到着したばかりの旅行客に見えるはずだ。つまらない会議のせいで到着が遅れて妻と子供たちと待ち合わせしている父親というところだ。Tシャツに着替える時間もなかったというわけだ。

彼はまっすぐ雑貨店に向かうと隅に小さな磁気パッチが付いたプリペイドのウォルトディズニーワールドのポストカードを買った。このメモリーには二、三時間分の動画や好きなだけの写真を詰め込んで送ることができるのだ。画素が埋め込まれた前面ディスプレイには画像のスライドショーが映し出すことができる……一年に一度はこのことを忘れた新婚カップルが間違えてバスルームでのきわどい写真を何枚か取り込んで郵便仕分け室の人間を喜ばせるのがお決まりになっていた。

彼は大急ぎで自分と子供たちがディズニーワールドでどれほど愉快な時間を過ごしているかについて陳腐な文句を書き込むと自分のコンピューターを立ち上げてあのチャーチ女史がチェックインの時に使った住所を調べた。その住所を入力するとただ「スザンヌへ」とだけ付け加えた。これで十分わかるだろう。それから彼は取材源秘匿法の神々に祈りながらそれをポストの投函口へと滑り込ませたのだった。

社員バッジをつけ、シャツの裾をズボンに押し込みながら気を落ち着けつつ彼はゴルフカートへと戻った。それから穏やかに自分のオフィスがある建物へとカートを走らせていった。ディズニー警察は真昼の太陽の下で汗だくになっていた。

「ペイジさんですね?」

「ええ」彼は答えた。

「あなたのコンピューターをIT部に届けなければなりません」

「それには賛成しないね」サミーは完璧な落ち着きを装って答えた。「代わりにオフィスまで行って役員会を招集しようと考えているんだ」

警備員は若い細身のラテン系だった。側頭部と後頭部を短く刈り上げ、頭皮が日光に晒されている。帽子を脱いでハンカチで汗を拭う彼の額には帽子の縁が当たる部分に一列ににきびができていた。この若者をサミーは哀れんだ……サミーがこの若者の二十倍以上の賃金を受け取っていることを思えばなおさらだ。

「君には関係ないことだということはわかっている」サミーは言った。労働階級へのこの同情がいったいどこから現れたのだろうと彼はぼんやりと思った。「君に無理難題をふっかけたくはない。中に入ろう。このコンピューターは君が見張っていればいい。何人か他の人間と話をしてみよう。彼らがゴーサインを出したら君は仕事に取りかかればいい。もしそうならなければ彼らに会いに行こう。それでいいね?」

彼はその若者に自分のコンピューターを差し出し、若者はそれを受け取った。

「さあ私のオフィスに行こう」彼は言った。

若者が頭を振る。「私はこれを……」

「わかっている。わかっているとも。だが取引をしたじゃないか」若者はそのままその場を離れそうに見えた。「それに私のオフィスにバックアップがある。だから君は一緒に来てそれを持って行かなくちゃならないというわけだ」

その言葉が効いた。若者は少しありがたそうにエアコンが氷のように冷たい空気を送り出している室内に入ってきた。

「ロビーで待っていてくれ。ルイス」サミーはバッジに書かれた若者の名前を読みながら言った。「君は茹であがっていただろうしな」

「私には受けた指示があります」ルイスが答える。

サミーは顔をしかめた。「あまりまともな指示じゃないようだがな。さっき話し合ったことの方がまともだ。そうだろう?」

サミーは自分の秘書に言って訪問者のために用意している冷たい水のボトルとぶどうとベリーが乗った小皿をルイスに出すように言った。それからデスクの上にある電話でギニョールへと電話をかけた。

「サミーだ。緊急の役員会を招集する必要がある」前置きぬきで彼は切り出した。

「ハッカーバーグの件だろう?」

「あいつもう君に電話していたのか?」

「ずいぶん説得力のある話だったな」

「僕の話だってそうだ。チャンスをくれ」

「もしこれを実行に移したら何が起きるのかはわかっているんだろう?」

「会社を救えるだろうな」

「そして君は」ギニョールが言った。「君は……」

「わかっている」サミーは答えた。「だからなんだ。たんなる仕事じゃないか」

「君にデータを持たせておくことはできない……これについてはハッカーバーグが正しい」

「バックアップ全部と僕のコンピューターを君のオフィスに今すぐ送ってもいい」

「てっきりもうそういうものは全部IT部に送って処分したかと思っていた」

「まだやっていない。今、僕のオフィスにルイスという名前のセキュリティー担当のキャストメンバーが来ている。もし警備センターに連絡して彼にデータを君のところに持っていくように言いたいなら……」

「サミー。君は今、自分が何をしているのか理解しているのか?」

サミーは気が違ったように笑い出したくなるのをこらえた。「わかってるさ」彼は答えた。「自分が何をやっているか完全に理解している。そして君がこいつを理解する手助けをしたいんだ」

「今、警備センターに連絡している」

しばらくするとルイスの電話が鳴りだし、無意識に頷きながら若者は熱心に相手の話を聞いた。若者が電話を切るとサミーはデータのバックアップとデータを印刷した書類、そしてコンピューターを相手に手渡した。「さあ行こう」彼は言った。

「ええ」ルイスは言うと先に立って歩き出した。

ギニョールのオフィスがあるキャスティングオフィスの建物までは車ですぐだった。気持ちのいい風が彼の顔をなで、汗を引かせた。長い一日だった。

停車するとサミーは再びルイスに先を歩かせ、彼の背後にくっついて七階にある役員室まで歩いていった。ゴールドコーストに臨む最高幹部のオフィスがある場所だ。

ギニョールはドアの所で二人を迎えるとルイスから荷物を受け取り、サミーを中に通した。サミーがルイスの目を見ると驚いたことにルイスはウィンクをして目立たぬように親指を立てながら横をすり抜けていった。サミーはまるで彼と何か秘密を共有しているかのような気分になった。

役員会のメンバーは全部で八人だがその多くは世界中を飛び回っている。四人以上はいないだろうとサミーは予測していた。そこにいたのは二人だった。もちろんハッカーバーグもいる。この法律屋の様子はまるで爬虫類じみた落ち着きを絵に描いたようだった。

サミーはテーブルにつくとワックスで磨かれた木目調のテーブルに置かれた水盆を見つめながら自分のグラスに水を注いだ。

「サミュエル」ハッカーバーグが頭を振りながら言った。「こんなことになって残念だよ」

サミーは深く息を吸い込むとさっきまで自分の心を満たしていた「知ったことじゃない」という穏やかな気持ち取り戻そうとした。それはまだそこにあった。決して力強いものではなかったが確かにまだそこに存在していた。彼はその気持ちに身をゆだねた。

「この件は役員会に諮りましょう。どうです? どうすればいいのかはみんな既にわかっていると思いますが」

「その必要はない」ハッカーバーグが言った。「役員はすでにこの件について投票を済ませている」

サミーは目を閉じて自分の鼻筋を擦った。目をやるとハッカーバーグは残忍そうな笑いを浮かべていた。目尻が意地の悪い笑みでゆるんでいる。

サミーはギニョールと役員会メンバーの方を見た。彼らは目を合わそうとしない。ギニョールはルイスを部屋に招き入れるとサミーのコンピューター、書類、そしてバックアップを手渡した。彼は相手に近寄って静かに何かを言った。ルイスは向きを変えて立ち去っていった。

ギニョールが咳払いをした。「他に議論することもないでしょう。それでは」彼が言った。「みなさん、出席ありがとう」

心の中でサミーはついにこの時が来たのだと思った。ハッカーバーグは役員会で彼を吊るし上げるだろう……決して許す気はないのだ。ぎこちない動きで立ち上がり、ゆっくりと堂々とした足取りで立ち去るその法律屋を見ながらサミーは一瞬にしてこの男がやりたがっていることを直感した……サミーの言葉に従えば恐ろしい窮地に追いやられるとみんなに言い聞かせることで冷徹なすざまじい権力を手に入れようとしているのだ。その思考の道筋を彼は知っていた。それは空港でTSA運輸保安局にひざまずかされて直腸検査をされる前に聞いたのと同じ論理だった。あなたは私たち全員が直面している重大な危険を理解していません。私の指示に従ってください。そうしなければ危険を防げないのです

他の役員が出て行くのを彼は待った。誰も彼と目を合わせようとはしなかった。そして彼とギニョールだけが残された。サミーは眉を持ち上げ、両手を広げて身振りで尋ねた。次は何が起きるんだ?

「IT部があのコンピューターを処分するまで君は何の仕事にも取りかかれない。休暇を取れ。ダイナに電話をかけて一緒に休暇をとらないか尋ねてみるんだな」

「彼女とは別れたよ」サミーは言った。水を飲んで立ち上がる。「行く前に一つだけ質問があるんだが」

ギニョールは顔をしかめたがたじろぎはしなかった。「なんだね」彼が言った。

「見積もりの数字がどうなっているのか君は知りたくないか?」

「法務に口出しするのは私の仕事じゃ……」

「そいつは後で話そう。質問の本題じゃない。質問はこうだ。君は知りたくないのか?

ギニョールがため息をついた。「知りたいに決まってるじゃないか。もちろん知りたいさ。だが私とは直接関わりのないことだし、どうしても私がやりたいことってわけでもない。確かなのは株主を危険に晒すことはできないという……」

「頭を砂場に突っ込むようなそんな考えは無視するんだ。こいつは株主のためになる話じゃないか?」

「もちろん株主にとっても悪い話じゃないさ。だが会社全体を危険にさらすよりは……」

サミーは頷いた。「それじゃあ二人で休みをとってハリウッドまでドライブするっていうのはどうだ。参考になるだろう」

「サミー。私にはやらなきゃならない仕事が……」

「ああ。だが君のコンピューターがなければ……」

ギニョールが彼を見た。「何をした?」

「私は何もやらないさ。これからするかもしれないがね。素直にこの件に関してメールした全員のリストをハッカーバーグに渡すつもりだ。リストに載った者たちは全員、IT部にある巨大磁石でコンピューターを処分されるってわけだ」

「だが君はこの件について私にメールなんか……」

「本当に? 送った気がするけどな。確か送ったはずだ。たぶんスパムフィルターに引っかかっているんだろう。シュレッダーが処分してくれるさ」

ギニョールはしばらく頭にきていたようだったがやがて笑い出した。「おまえがこんなくそ野郎だったとはな。とにかくあのまぬけな法律屋のことはもういい。最近は何に乗っているんだ?」

「新しいDellのLuminuxを買ったばかりだ」サミーはにやりと笑い返しながら言った。「オープンカーだぞ」

「いつ出発する?」

「明日の午前六時に拾いにいくよ。朝の通勤ラッシュを出し抜ける」


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