カーミラ ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ

木樵り


「まもなくいくつかの障害が現れた。その一番目は、ミラルカが極度のけだるさ――最近の病気の後から残っている衰弱――を訴えたことだ。そして彼女は、午後かなり遅くになるまで決して部屋から出てこない。その次は、偶然発見されたことだが、彼女はいつも内側からドアに鍵をかけ、彼女が化粧室で介助させるためにメイドに室内に入ることを許すまでは鍵をそのままにしておくにもかかわらず、疑いなく、時々彼女は非常に朝早い時間やそれより遅い一日のうちの様々な時刻に、彼女が自分が動き回っていると判らないままに、部屋から居なくなった。彼女は朝の最初のかすかな灰色の中を木々を抜けて西のほうに向かって歩くのを城の窓から幾度も目撃され、しかも昏睡状態にある人のように見えた。これは彼女が睡眠中に歩くのだと私を確信させた。しかしこの推測は謎を解かなかった。どのようにして彼女は、ドアに内側から鍵をかけたまま、部屋を抜け出すのか? どのようにして彼女はドアや窓を打ち破らずに家から抜け出すのか?

「困惑の真っ只中で、もっと急迫した種類の心配の種が生じた。

「私の愛しい子供が顔色を悪くし、元気がなくなったのだ。そして、それはあまりに不思議な様子でそして恐ろしくさえあったので、私は本当に怖くなった。

「最初、彼女にぞっとするような夢が訪れた。それから、彼女の想像したところによれば、時にはミラルカの姿であったり、時には獣の格好であったりした幽霊が訪れた。それはぼんやりと見え、ベッドの足もとのまわりを端から端へと歩きまわっていた。

「最後には、ある感覚がやってきた。それは、彼女が言うには不愉快なものではないが、とても奇妙なもので、彼女に向かって冷たい流れが流れるのに似ていた。その後で、彼女は一対の大きな針のようなものが、喉のすこし下で、とても鋭い痛みを伴って彼女を刺すような感じを受けた。数夜後には、喉を絞められるような徐々で痙攣する感覚に続いて、それから意識を失うようになった」

私は情け深い老将軍が話すすべての言葉をはっきりと聞くことが出来ました。なぜなら、この時には私達は、半世紀以上煙突の煙を見せていない屋根の無い村に近づくにつれて街道の両側に広がる短い草地の上を疾走しているところだったからです。

私自身の徴候が、あの時には私の父の館で訪問者として迎えるはずだった気の毒な少女によって体験され、悲劇的結末が後に続いた徴候として、とても正確に描写されていたのを聞いて、どんなに私が奇妙に感じたかを推測できるでしょう。また、私が彼から、実際私達の美しい訪問客であるカーミラ! のそれそのものである詳細な習慣や不可解な風変わりな点を聞いて、どのように私が感じたかを推量できるでしょう。

眺望が森の中で開きました。私たちは突然廃墟となった村の煙突や屋根、そして荒れ果てた城の塔や銃眼の下にいました。その廃城のまわりには、巨大な木々が一団となっていて、高台から私達に覆いかぶさっていました。

恐ろしい夢心地のままで、私は馬車から降り、そして黙っていました。というのは、私達は各々たくさんの考えることを持っていたからです。私達はすぐに上り坂を登り、そして登りきったところで、広々とした部屋や曲がりくねった階段や暗いお城の階段の間にいました。

「そうすると、これが嘗てカルンシュタイン家の宮殿のような邸宅だったのか!」

老将軍は、大きな窓から村を見渡し、広く波立っている森の広がりを見て、しまいにそう言いました。「悪い一族だった、そしてここにその血にまみれた歴史的な記録が書かれている」と彼は続けました。「死んだ後は、彼らの残虐な強い欲望で人々を苦しめつづけることは難しかっただろう。あれがカルンシュタイン家の礼拝堂だ、下の方のあそこにある」

彼は、少し坂道を下ったところにある、木の葉を通して部分的に見えるゴシック風の建物の灰色の壁に向かって、下のほうを指差しました。「そして、木樵りの斧の音が聞こえる」と彼は付け加えました。「礼拝堂の周りを取り囲んでいる木々の間で仕事している。彼なら多分、私が探しているものの情報を我々に与えてくれる。そして、カルンシュタイン女伯爵マーカラの墓の在り処を教えてくれるだろう。こういった田舎者達は偉大な一族の地域的な伝説を保ちつづけている。裕福で身分ある人達の中では、その一族そのものが絶えると同時に彼らの伝説は消え去ってしまった」

「私達の家には、カルンシュタイン女伯爵マーカラの肖像画があるのですよ。見てみますか?」と私の父が尋ねました。

「時間は十分にあるのだ、愛しい友よ」と将軍が返事しました。「私が思うに私は本人に会ったことがあるよ。そして、私が最初に予定していたより早く私を君のところへ導いた一つの動機は、我々がいまや近づきつつある礼拝堂を調査することなのだ」

「なんと! 女伯爵マーカラに会ったのですって」と父は叫びました。「なぜです、彼女は一世紀以上前に死んでいるのに!」

「君が想像し、私に向かって喋ったような意味で死んでいるのではない」と将軍は答えました。

「私はあえて申しますが、将軍、貴方は私を全く当惑させる」と、前にも私が気がついた疑いの心が帰還してかのように一瞬彼を見ながら私の父は言い返したように私には思えました。しかし、老将軍の態度には時折怒りと非常な嫌悪が見られるものの、浮ついたところは一切ありませんでした。

「私には残っている」と、重厚なゴシック建築の教会――その大きさがそのように称されるのを正当化している――のアーチの下を私たちが通り抜けるときに、彼は言いました。

「この世で私に残された数年間の間私に関心を抱かせる一つの目的が。そして、それは、彼女に復讐を与えることであり、神に感謝します、その復讐は人間の手によって遂げられようとしているのだ」

「どんな復讐を意味しているのですか?」仰天して父が尋ねました。

「怪物の首をはねることを指して言っている」と敵意に目を光らせて彼は答えました。そしてそのとき、彼は廃墟の空虚に物悲しく反響するほど足を踏み鳴らし、彼が荒っぽく空中で手を振りまわす間、握り締めた彼の手は同時にまるで斧の柄をつかんでいるように振り上げられました。

「なんですと?」と、私の父はそれまでよりもっとまごついて、叫びました。

「彼女の首を切り落とすことだ」

「彼女の首を切り離すですって!」

「ああそうだ、手斧でも、鋤でも、彼女の残虐な喉を割って裂くものなら何でも使ってだ。まあ聞いてくれたまえ」と、怒りに体を震わせながら彼は答えました。そして話を先へ急ぎながら彼は言いました。

「あの長い角材が椅子にちょうどいい。君の愛しい子供は疲れているようだ。彼女を座らせなさい。そして、もう二、三語ったら私の恐るべき物語は終えるつもりだ」

礼拝堂の草の生えた舗道の上に置かれていた材木の四角い塊が長椅子を形作っていましたので、私がとても喜んで座りました。その一方将軍は、古い壁に寄りかけられていた木の枝を取り除いていた木樵りに呼びかけました。そして、手に斧を持った、がっしりした年寄りが私たちの前に立ちました。

彼は私たちにこれらの石碑について何も話すことはできませんでした。しかし、彼が言うには、約二マイル離れた牧師の家に今逗留しているこの森の管理官の老人がいて、その人は、古いカルンシュタイン家のすべての石碑のことを指し示すことができるとの事でした。そして、わけのないことだと言って、もし私たちの馬を彼に貸してくれれば、一時間半もかからずに彼は森林管理官をつれて戻ってくると請け負いました。

「君は長い間、この森林で働いているのかね?」と私の父がその老人に尋ねた。

「ここで木樵をやってまさぁ」と彼は訛りのある口調で答えました。「森林管理官に雇われて、ずっとだよ。わしの前はおっ父も、その前も、数え切れねえくらいたくさんの世代ずっとだ。ここの村でわしの先祖が住んどった家を見せようかね」

「どうして村は荒れ果てたのかね?」と将軍が尋ねた。

「亡霊どもに苦しめられただよ、旦那。数人はそいつらの墓まで追跡されて、慣わしに則った吟味で見破られ、首を切り落とすとか、杭を打つとか、そして、焼き払ったりとかの慣わし通りの方法で退治されたよ。だけど、それからもたくさんの村人が殺されたんだ。「だけど、慣わしに則ったこれら全部の手続きの」と彼は続けた、「――たくさんの墓が暴かれ、たくさんの吸血鬼が彼らの恐ろしい活力を奪われた――その後でも、村は救われなかったんじゃ。しかし、たまたまこちらのほうへ旅行している最中の、そのような事件について良く承知している――彼の国では多くの人がそうなんじゃが――、モラビア人の貴族が、どのように問題が起きているのかを聞いて、彼は、村をその苦しめるやつらから救うことを申し出てくれたんじゃ。そういうわけで彼は、こんなふうにやってくれたのさ。

その夜は明るい月が出ていた。日が暮れると直ぐに彼は、そこから間近に教会付属の墓地をはっきりと見ることが出来るここの礼拝堂の塔に登った。ほれ、あの窓から見えとるよ。この場所で、吸血鬼が墓から出てきて、その墓の近くに自分がくるまれていた麻布を置き、それから、住んでいる人たちに災いをもたらすために村へ向かってそっとその場を離れるのを確かめるまで見張っておった。

「これを全て見ておったその旅人は、尖塔から降りていって、吸血鬼の麻の包みを取り、それを彼が再び昇った塔の天辺に持って上がったのさ。吸血鬼は、徘徊から戻り彼の布が無くなっていることに気付くと、怒り狂って塔の頂上で彼を見ていたモラビア人に向かって叫んだ。そして、モラビア人はその返答に、昇ってきてそれを取るようにと吸血鬼に手を振って差し招いたんだ。彼の招きに応じて、吸血鬼は尖塔を昇り始め、吸血鬼が尖塔の銃眼つき胸壁に達するやいなやモラビア人は剣の一突きで彼の頭蓋骨を両断して教会の墓地へ吸血鬼を投げ落とした。そしてそこへ向かって曲がりくねる階段を降りて旅人は追っかけ、吸血鬼の首を切り離したもんだ。彼は次の日それ(首)と体とを、村人のところへ運んだ。村人たちはそいつらにふさわしい処置として、杭で串刺しにして焼いたんじゃ。

「このモラビア貴族は、その当時の一族の主人からカルンシュタインの女伯爵マーカラの墓を移す許可を貰っていて、彼は手際良くやってのけたんじゃ。だからほんのしばらくすると、その場所はまったく忘れ去られてしまったのさ」

「君はそれがどこに立っているのか指し示すことが出きるか?」と、将軍は熱心に問い掛けました。

林業労務者は、頭を振り、そして微笑みました。

「今ではそれを知っとる者は誰もいねえな。それに、彼女の遺体は移されたと言われとるがね、その事に確信を持っておる者は誰もいねえだよ」

このように話している間に時間が差し迫ったので、彼はそこへ斧を落して、私達と別れて出発しました。そして私達は将軍の奇妙な話の残りを聞くことになりました。


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©2008 山本雅史. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。