カーミラ ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ

会合


「私の最愛の子は、」と将軍は話を再開した。「いまや急速に具合が悪くなりつつあった。彼女を診察した医者は、彼女の病状についてほとんど思い当たることがなかった、その時はそうだろうと私は見て取ったのだ。彼は私の不安な様子を見て、専門家との相談を提案した。私はもっと有能な医者をグラーツから呼び寄せた。

「彼が到着するまでに数日が過ぎた。彼は学識豊かな上に善良で信心深い人だった。私の可哀相な養女を一緒に診て、話し合って議論するために彼らは私の書斎に引きこもった。私が彼らの呼び出しを待っていた隣の部屋から、私はこれらの二人の紳士の声が、厳密に理性的というよりいくらか鋭い議論の最中で、荒げられるのを聞いた。私はドアをノックして入った。グラーツからやってきた老医師が彼の理論を主張しているのを私は見つけた。彼の商売敵は爆笑を伴うあからさまな嘲笑でそれと格闘していた。私が入ったことで、見苦しい議論の応酬は静まり、口論は終わった。

「『ご主人』と、最初の医者が言った。『私の学識ある御同輩は、貴方は医師よりも祈祷師を必要としているとお考えのようですよ』

「『失礼ですが(勘違いしておられるのではありませんか)、』と、グラーツから来た老医師は、不機嫌な顔で言った。『私の見解を述べるのは、別の機会に自分のやり方でやらせてもらいましょう。恐れながら、将軍殿、私の技術と科学では、私は何の役にも立ちません。私は行ってしまう前に、貴方に少し提案させていただきたいと思います』

「彼は思案にふけっているように見えた。そしてテーブルのところに座って書き始めた。「酷くがっかりして私はお辞儀をした。そして私が行こうとして背を向けたとき、他の医者が、書き物をしている彼の相手役の方を肩越しに指差して、それから、肩をすくめ、重々しく額に触った。

「この専門家との相談は私にとって何の進展ももたらさなかった。私は歩いて庭園に出たが全く取り乱していた。十分か十五分経って、グラーツから来た医者が私に追いついた。彼は私を着けて来た事を詫び、しかし、彼は良心的にはもうニ、三述べずには暇乞いをすることが出来ないのだと言った。彼は私に以下に述べることは間違いようの無いことだと言った。普通の病気で同じような徴候を示すものは全く無い、そして死の危機が既に非常に近くに迫っているのだと。残っているのは、一日かあっても二日の命である。もし、致命的な発作がすぐに抑えられるならば、心を込めた看病と治療とで彼女は元気になるかもしれない。しかし、すべては今、取り返しがつくかつかないかの境界線上にある。更にあと一度攻撃を受けたなら、刻々と死の準備が出来ている生命力の最後の火は消えてしまうだろう。

「『それで、貴方が言うその発作の性質はなんですか?』と私は懇願した。

「『私はすべてをこのノートにしたためておきました。貴方が直ぐに近隣の牧師を呼びにやり、私の手紙をその牧師の目の前で開封し、けっして彼が貴方と一緒になるまでそれを読まないこと、という条件でそれを貴方の手に渡します。ほかに、貴方はそれを軽蔑するかもしれませんが、それは生死に係ることです。牧師が貴方の期待に背くようでしたら、もっともその場合は、貴方はそれを読んでも良いでしょう』

「最後に暇乞いする前に、私が彼の手紙を読んだ後おそらく他のすべてのことより私に興味を抱かせた、まさにその問題に関して非常に精通している人物に会いたいと思うかどうかを彼は私に尋ねた。そして彼は熱心にその男を招くか訪ねるかするよう私に勧めた。そうして、彼は辞去した。

「牧師は不在だったので、私は自分だけで手紙を読んだ。他の時か他の場合であったら、それは私に嘲笑を起こさせただろう。しかし、すべての手馴れた手段が失敗し、そして最愛の対象の命が危機に瀕している時、最後の機会のためには、どんなインチキ治療にでも人々は殺到しないだろうか?

「学識ある人の手紙より道理に合わないものは無い、と君は言うかもしれない。

「その手紙は、彼を精神病院に引き渡すのに十分なほど奇怪だった。 彼は、患者は『吸血鬼!』の訪問に苦しんでいると言っていた。

彼女が喉の近くで起きたと述べた刺された感触は、良く知られている吸血鬼の特徴である、二本の長く細く鋭い歯の挿入であった、と彼は主張し、そして、悪魔の唇によって引き起こされるという記述にすべてが結びつく小さな青黒い印の明確な存在に関しては、全く疑いの余地は無く、そして病人が述べたすべての徴候は、類似の災厄の訪れのすべての場合に記録されたそれと正確に一致している、と彼は付け加えていた。

「吸血鬼のようなどんな驚異的なものの存在については、私自身まったく懐疑的だったので、私の考えでは、善良な医者の超自然的な理論は、変わった学識の事例といわば幻覚のようなものに奇妙に関連付けられた知識とを与えるものだった。しかしながら、私はたいそう苦しみ悩んでいたので、何もしないよりはと、手紙の指図に基づいて行動した。

「私は、蝋燭が一本灯してある可哀想な患者の部屋に面した暗い衣装部屋に隠れ、そしてそこで彼女が早く寝入るまで見張っていた。私は、命じられた指図のようにドアのところに立ち、剣を私の横のテーブルの上に横たえて、隙間を通して覗いていた。そして、一時を少し過ぎたとき、大きな黒いもの、それはとてもぼんやりとしていた、がベッドの足もとの向こうを、私にはそう見えたのだが、這って進み、そして可哀想な少女の喉めがけて急に延び拡がり、たちまち大きく震えながら膨らんだのを目撃した。

「少しの間私は驚いて体をすくませて立っていた。今や私は剣を手に前へ跳び出した。黒い生き物は急にベッドの上を滑ってベッドの足もとのほうへ縮んで、そして、ベッドの足もとの下一ヤード位の床の上に立ちあがりながら、こそこそした凶暴さと憎悪に満ちた目つきで私を見つめた。私はミラルカを見た。無我夢中で私は即座に剣で彼女に打ち掛かった。しかし私は、彼女が無傷でドアの近くに立っているのを見た。恐ろしくなって、私は追い、再び一撃をお見舞いした。彼女は消え失せ、私の剣はドアに向かって飛んで粉微塵に砕けた。

「その恐ろしい夜に起きたすべてのことを述べることはできない。家中てんやわんやだった。妖怪のミラルカは行方知れずだった。しかし彼女の犠牲者は急に容体が悪化し、そして夜が開ける前に息絶えた」

老将軍は興奮していました。私たちは彼には話しかけませんでした。私の父は、少しの距離歩き、数ある墓石の上の刻まれた銘文を読み始めました。そして、それに没頭して、父は調べ事をやり通すために、付属礼拝堂のドアの中にぶらぶら歩いて入っていきました。将軍は壁にもたれて、涙を拭い、大きくため息をつきました。私はそのとき、こちらへ近づきつつあるカーミラとペロドン夫人の声を聞いてほっとしました。その声が途絶えました。

偉大で身分のある死者と結び付く、ここがそうだったのですが、ちょうどあまりにも奇妙な話を聞いていたこのさびしい場所では、彼らの記念碑は私たちの周りの埃と蔦の間で朽ちていきつつありました。そして、それらのすべての出来事は、私自身の奇妙な状態に非常に恐ろしい影響を与えました。――四方の側にそびえ、密集しそしてその静寂な壁よりも高い、そびえたつ木の葉によって暗くなっている、この幽霊のいる場所で、――恐怖が私の心全体に忍び入りました。そして、私の友人は結局この陰鬱で不吉な光景の中へ入って静寂を乱そうとはしなかったのだと考えて、私はがっかりしてしまいました。

老将軍は、手を粉々になった碑の基台の上に置いていて、その両眼は地面の上をじっと見つめていました。

悪魔の奇怪な像のひとつが載っている、細くアーチの掛かった入り口の通路の下ではゴシック様式の彫刻の冷笑的で幽霊のような空想物が大いに喜んでいました。カーミラの美しい顔と姿が暗い礼拝堂に入ってきたのを見て私はとても嬉しく思いました。

私は丁度そのとき立ちあがって話しかけようとしていて、彼女の人懐っこい笑みに答えて微笑みながら肯きました。とその時、叫び声をあげ私の横にいた老人は、木樵りの斧をつかみあげ、前へ突進しました。

彼を見て、残忍な変化が彼女の容貌に起こりました。それは急激で実に恐ろしい変容で、それと同時に彼女は身をかがめて後ずさりしました。私が金切り声をあげる間もなく、彼は斧を振り上げ力一杯彼女へ打ち込みました。しかし、彼女は彼の強打をかいくぐって懐へ飛び込み、無傷のまま、彼女のごく小さい手で彼の手首を掴み、握り締めました。彼はしばらくの間腕を放そうともがきました。しかし彼の手は開いて斧は地面へ落ち、そして少女は姿をくらましました。

彼は壁にすがってよろめきました。彼の灰色の髪は頭の上で逆立ち、彼の顔の上で滴りが光りました。まるで彼が死の瀬戸際にいるかのようでした。

恐ろしい光景は一瞬のうちに過ぎました。その後で最初に私が覚えているのは、私の前にペロドン夫人が立っていて、こらえ切れずに何度も何度も「カーミラお嬢様はどこ?」と質問をくり返していたことです。

ついに私は答えました。「知らないわ――分からないわ――彼女はそこを通って行ってしまったわ」、そして私はペロドン夫人が丁度通って入ってきたドアを指差しました。

「それからほんの一、二分だわ」

「だけど私は通路のそこに、カーミラお嬢様が入ってからずっと立っていたのですよ。そして、彼女は引き返してこなかったのです」

それから彼女は、全てのドアや通路を通し、そしてあちこちの窓から「カーミラさまぁ」と呼び始めました。しかし全く返事は返ってきませんでした。

「彼女は自分をカーミラと呼んでいたのかね?」と未だ興奮している将軍が尋ねました。

「カーミラ、そうですわ」と私は答えました。

「そうです、か」と彼は言いました「あれがミラルカだ。あれこそは、遠い昔にはカルンシュタイン女伯爵マーカラと呼ばれた人と同一人物なのだ。お嬢さんや、この呪われた所からできるだけ早く出発しなさい。牧師さんの家へ馬車を走らせ私たちが行くまでそこにとどまるのだ。立ち去りなさい! 願わくば君がもう二度とカーミラを見ないことを祈る。貴女はもうここでカーミラを捜してはならない」


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©2008 山本雅史. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。