カーミラ, ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ

私たちの意見交換


私たちはその「お供の一行」が素早く霧が立ちこめた森の中へ姿を消すまで、目で追いました。そして、それらの蹄と車輪の音が静かな夜気の中へ消えていきました。

若い女性の他には、(先程の)珍事が一瞬の幻影ではないことを私たちに保証するものは残りませんでした。ちょうどこの時、その若い女性は目を開けました。彼女の顔は向こうに向けられていたので私には彼女の顔は見えませんでしたが、頭を上げ、はっきりと周りを見回していました。そして、「ママはどこ?」と不満げに尋ねるとてもかわいらしい声を聞きました。

私たちの頼りになるペロドン夫人が優しく答え、なにか安心させるような断言を付け加えました。

それから私は彼女がこう問いかけるのを聞きました。

「私は一体どこにいるのでしょう? ここはなんという場所?」そしてその後彼女は「馬車が見えないわ、マツカも。彼女はどこ?」

夫人は彼女が理解するまで彼女の質問に全て答えました。それからその若い女性はどのように災難が起こったのかを徐々に思い出し、馬車に乗っていた人も付き添っていた人も誰も怪我を負っていないと聞いて喜びました。しかし、母親が戻るまでの約三ヶ月間彼女はここに置いていかれたことが解ると、彼女は涙を流して悲しみました。

私が慰めを言おうとペロドン夫人たちのところへ行こうとしたとき、ド・ラフォンテーヌ嬢が私の手に彼女の手を置いていいました、

「近づいてはいけません、彼女が今話し合えるのは一度に一人です。今はほんの少しの興奮であっても彼女の心を打ちのめすでしょう。」

彼女が安らかにベッドに入ると同時に、私はそう思ったのですが、彼女の部屋に駆け上がって彼女に会うつもりでした。

そうしている間に私の父はおよそ二リーグ離れたところに住んでいる医者へ馬に乗せて召使を使いにやり、その若い女性を受け入れるための寝室が用意されました。

訪問者はいまや起き上がり、夫人の腕に寄りかかって、跳ね橋を越えお城の門の中へゆっくりと歩み入ろうとしていました。

玄関では彼女を受け取ろうと召使いたちが待機していました。そして彼女は直ちに部屋へと導かれました。私たちがいつも応接間として座っていた部屋は細長く、四つの窓があり、そこから私が既に描写したような森の光景の中に堀と跳ね橋とを見渡せました。

その部屋は、おおきい彫りの入った飾りだなを伴って、古くて彫刻が刻まれた家具がしつらえられており、椅子は深紅のユトレヒト産びろうどの座布団クッションが敷かれていました。壁はつづれ折で覆われ、大きな金色の額縁や、表現された主題が狩りや鷹狩りや祝祭であるところの古くて奇妙な衣装を纏った等身大の肖像画で囲まれていました。威厳がありすぎることもなく、とても快適であると申せましょう。ここで私たちはお茶を頂き、父のいつもの愛国的な好みのために、彼は愛国的な飲み物(英国人なので紅茶)が現れるよう要求し、通常は私たちの珈琲とチョコレートを伴っていました。

今夜は私たちはここに座りました。そして、蝋燭の火に照らされながら今夜の珍事について語り合いました。

ペロドン夫人とド・ラフォンテーヌ嬢が二人とも私たちの宴の一団に加わっていました。若い訪問者は、彼女のベッドに横たわるとすぐに、深い眠りに落ちました。そして、夫人たちは彼女を召使の世話に任せてきたのでした。

「私たちのお客様はどうですか?」私は夫人が入ってくるとすぐに聞きました。「彼女について教えてください」

「私は彼女を気に入ったわ」と夫人は答えました、「私が思うに、彼女は見た事が無いほどかわいらしい女性だわ。あなたと同じくらいの年頃で、とても(生まれが良く)おっとりしていて上品ですよ」

「彼女は全く美しい」とフランス女性の家庭教師(ド・ラフォンテーヌ嬢)が言葉を差し挟みました。彼女は訪問者の部屋を少しの間覗き込んでいたのです。

「そして、なんてきれいな声なんでしょう!」とペロドン夫人が付け加えました。

「馬車の中にいて馬車が再び支度できた後も出てこずに、馬車の窓から見ていた女の人に気がつきましたか?」

と、フランス女性の家庭教師が尋ねました。

「いいえ、私たちはそんな人は見なかったわ」

それから、彼女は色のついたターバンの一種を頭に巻いた一人の醜い黒人女性について、描写しました。その黒人女性はずっと馬車の窓からうなづきつつあざけるようにニヤニヤ笑いながら、かすかに両目を光らせると共に大きな白い目玉で夫人たちのほうをじっと見ていたのでした。

「あの一団の従者の男たちの人相の悪かったことといったら、気が付きましたか?」と夫人が尋ねました。

「ああ解ったとも」とちょうど入ってきた父が言いました。「これまでにあれほど醜くやましい所がある顔つきの男どもは見たことが無い。やつらが森の中であの気の毒な夫人を襲って略奪しなければ良いと思うよ。とはいえ、気が利いている悪党どもだよ、あっという間に、あの惨事を収拾してしまったのだからな」

「彼らは長旅で疲れ果てているようでしたわ」と夫人が言いました。「邪悪な顔つきなのは置いておいたとしても、彼らの顔は相当奇妙に捩曲がっていて、暗く、機嫌が悪そうでした。私だって、白状しますと、とても好奇心が強いのです。しかし、言っておきますが、あの若い女性は明日になれば全部話してくれるでしょう、彼女が十分に回復すればね」

「彼女がそうするとは思わないな」と、奇妙な微笑を浮かべ、軽くうなづきながら私の父が言いました。それは、まるで、彼が注意を払って私たちに話すより多くのことを父は知っているようでした。

これは、彼と黒いビロードに身を包んだ女性の間で、彼女の出立の前の簡潔で熱心な会見においていったい何が交わされたかについて、私たちをより探究的にしました。

私が父に教えてくれるように嘆願した時、私たちはほとんど一人きりではありませんでした。(私に夫人たちが味方してくれました)

「教えないことについてなにか特別な理由があるわけでは無い。彼女は、娘は微妙な健康状態にあって神経質だ、しかしどんな種類の急な発作――彼女からそう言ったのだ――に襲われたり、幻覚を見たりするわけではなく、実際のところ、全く健全ではあるのだがといって、彼女の娘の世話で私達をわずらわすことに気乗りがしないと言ったのだ」

「まったくのところ、そんなことをおっしゃるとはなんて奇妙なんでしょう」と、私は口を挟みました。「まったく(そんな気遣いは)不要ですわ」

「まったくおまえの言うとおりだ、」と彼は笑いました。「何が交わされたのかすべて知りたいというのなら、それは実際とても些細なことなのだが、教えてあげよう。彼女はそれからこういったのだ、

『私は「生死に係る」ほど重大な――彼女がその言葉を強調したのだ――急ぎのかつ隠密の長い旅の途上にあります。三ヶ月で子供を迎えに戻るつもりです。その間、私たちが誰であり、どこから来て、どこへ向かって旅しているのかについて彼女は沈黙を守るでしょう。』これが彼女が話した全部だ。

彼女は非常にきれいなフランス語を話したよ。彼女が『隠密の』という言葉を言ったとき、硬い表情で私を見据えて、彼女は数秒口ごもった。彼女はそのことを非常に重視しているのだと思う。お前もどんなに素早く彼女が去ったのか見ただろう。お嬢さんを預かることになったが、私がひどく愚かなことをしでかしてないことを願うよ。」

私について言えば、私は喜んでいました。彼女にあって話したいと切望していました。そして、医師が私に許可を与えるまで、ひたすら待ち続けました。私たちを取り囲んでいるような孤独の中においては、新しい友人の到来は、あなたのように街に住んでいる人には想像もできないほど、大きな出来事だったのです。

ほとんど一時になるまで医者はやってきませんでした。しかし私は黒いびろうどを着た王女様が乗って走り去っていった馬車に徒歩で追いつくことができる以上に、ベッド(寝床)に入って眠り込むことは出来ませんでした。

医者が応接間に下りてきたとき、彼の患者について次のようなとても順調な報告がありました。今彼女は座って起きていて、彼女の脈は全く正常であり、明らかにすっかり良くなっている。全く怪我はなく、彼女の神経を襲った小さなショックは害をなすことなく過ぎ去った。二人がそれを望めば私が彼女に会っても全く差し支えない。この許可を貰うと、直ちに私は、彼女が私に二、三分の間彼女の部屋に彼女を訪ねることを承知するかどうかを知るために、人をやりました。

召使はすぐに戻ってきて、彼女がそれ以上何も望んでいないと言いました。

皆さんもお分かりでしょうが、私がこの許可を利用するには長くはかかりませんでした。

私たちの訪問客は、お城で最も立派な部屋の一つに横たわっていました。その部屋は、おそらく、少し荘重でした。クレオパトラが胸元に毒蛇をあてている光景を現した地味な色の一片の綴れ織が、ベッドの足元の反対側に掛けてあり、その他の厳粛で古典的な場面が幾分色褪せて他の壁に飾られていました。しかし、そこには金の彫刻があり、その部屋のほかの飾りつけは豊かで様々な色合いをしており、十分に、古い綴れ織の陰鬱さを挽回していました。

ベッドの横には蝋燭がともされていました。彼女は座っており、彼女の細いかわいらしい姿がやわらかいシルクの化粧着に包まれていました。それは、花の刺繍が施され、厚いキルト風の絹で裏張りをつけられており、彼女が地面に横たわったときに、彼女の母親が彼女の脚の上に投げ掛けたものでした。

私がベッドに近寄ってちょうどちょっとした挨拶を始めたとき、すぐに私を口が利けなくし、彼女の前から一、二歩後ずさりさせたものは、いったいなんだったのでしょう?これからそれをお教えします。

私は、子供のときの夜に私を訪問したまさにその顔を見たのです。それは、私の記憶にあまりにも強固に残り、その上に、あまりにも長年、あまりにも頻繁に恐怖を伴って反芻され、そのとき誰も私が何を考えているのか気付かなかったその顔です。

それは、きれいで、美しくさえあり、私が最初に見たときは同じ憂いを帯びた表情をしていました。

しかしこれはほとんどすぐに、私を認めて居心地の悪そうにこわばった微笑へと、明るくなりました。

たっぷり一分間は(二人とも)黙っていました、それからついに彼女は話しました。私はしゃべることが出来ませんでした。

「なんと不思議なことでしょう!」と彼女は叫びました。「十二年前、私は夢の中であなたの顔を見たわ、それは、それ以来ずっと私を悩ましてきたの。」

「本当に不思議だわ!」しばらくの間私の発言を停止させていた恐怖を克服して、私は繰り返しました。「十二年前、夢の中のことか本当のことなのか判らないけれど、私は確かにあなたを見たわ。あなたの顔を忘れることは出来なかった。それ以来あなたの顔は私の目に焼きついていたの」

彼女の微笑みは柔らかくなっておりました。私がそれ(微笑み)の中に奇妙であるといぶかっていたものは何であれ消え去ってしまい、彼女の微笑みとえくぼをつくった頬は、今惚れ惚れとするほどきれいで理知的でした。

私は安心しました。そして、よりもてなしを示す気持ちで、彼女に歓迎の言葉を続け、彼女の突然の来訪がどんなに多くの喜びを私達皆に与えてくれているか、そして特に私にとってなんと幸福なことなのかを彼女に話し続けました。

私は話しながら彼女の手を取りました。私は、友人のいない人がそうであるように、少々内気でしたが、その状況は、私を能弁にし、大胆にさえしました。彼女は私の手を押さえて彼女の手をその上に重ね、それから、私の目を急に覗き込みながら彼女の両目は輝き、彼女は再び微笑んで、顔をばら色に染めました。

彼女は、非常にかわいく私の歓迎に答えてくれました。私は彼女の横に座りましたが、驚いたままでした。そして彼女は言いました、

「あなたについての私の幻覚について、話さなければならないわ。

とても奇妙なことだけど、あなたと私が互いの相手をあまりにも生き生きした夢として見たのよ。私たちの両方がそれぞれ、それを見たのよ、私があなたを、あなたが私を、私たちが今見ているように。もちろん私たちは二人ともほんの子供だったときに。

私は約六歳の子供だったわ、そして、混乱して不安な夢から目覚めたら、部屋に一人きりだった。私の育児室とは違っていて、不細工に暗い色の木で板張りされていて、戸棚や寝台の骨組や椅子や長いすがあたりに置かれていたわ。ベッドは、私が思ったのだけど、空っぽだった。そしてその部屋は私自身のほかは誰もいなかった。それから、しばらく周りを見渡し、二つの枝をもつ鉄の燭台を特に見とれた後、確かに覚えているのだけど、私は、窓に向かってベッドの一つの下を這って進んだの。

だけど、私がベッドの下から出る前に、私は誰かがすすり泣くのを聞いた。それから上を見上げ、私はまだ膝立ちしてたのだけど、あなたを見たのよ――間違いなくあなただったわ――今私があなたを見ているような、美しく若い女性、金色の髪で大きな青い瞳をして、そして唇――あなたの唇――あなたが、ここにいる貴女が。

貴女の美しい顔は私の心を捉えたわ。私はベッドの上によじ登って、私の手を貴女に回し、それから、私は二人とも眠りに落ちたと思うわ。(それから)私は金切り声で目を覚ましたの、貴女は座り込んで悲鳴を上げていたわ。私は怖くなって床に滑り降り、そして、ちょっとの間正気を失っていたようだわ。そして、我に返ったとき、私は再び家の私の育児室の中にいた。それ以来、けっして貴女の顔を忘れるたことは無いわ。ほんの少し似ているからといって間違えたことは無いわ。『貴女が』そのとき私が見た女性なのよ」

今度は私が私の新しい知人のあからさまになった不思議な体験に良く似た私の幻影について話す番になり、私はそうしました。

「他にこんなに恐ろしいことがあるなんて知りません。」と再び微笑みながら彼女は言った。――「もし貴女が貴女がそうであるよりきれいでなかったら、あなたのことをとても怖がったと思うわ。だけど、あなたと私は両方ともとても幼かった。私は単に、十二年前に私はあなたの知人になっていたのだと感じるし、すでに貴女との親密さに対する権利を持っていたのだわ。結局のところ、まるで私達はほんの子供のときから友人になるように運命付けられていたかのように思えるわ。私が貴女に惹かれるのと同じくらい貴女が奇妙に私に向かってひきつけられると感じるかどうかは判らないけれど。私にはこれまで、友人はいなかったわ――いま、見つけたのよね?」彼女はため息をつき、彼女の素敵な黒い目は情熱的に私をじっと見詰めた。

その時本当は、私は美しい訪問者へむしろ訳のわからないほど関心を寄せていました。彼女が言うように私は『彼女に惹かれて』いると感じていました、しかしまた、なにか、ちょっとした反発のようなものも感じていました。

この曖昧な感覚の中で、しかしながら、引きつけられる力の感覚はとても大きく広がりました。彼女は、私の関心を引き、私を獲得しました。彼女はとても美しくて、とても筆舌に尽くし難くいほど魅力的でした。

私は、この時、何らかの無気力さと疲労が彼女をいつのまにか包みこんでいることに気づきました。そこで、取り急ぎおやすみと彼女に告げました。

「お医者様は、こう考えているわ」と私はつけ加えました。「今夜あなたは、あなたにつき添って不寝の番をするメイドが必要です。私たちのメイドの一人が待っているわ、彼女はとてもよく気が付き、静かな女なのがすぐにわかるわ」

「どうもありがとう、でも私は眠れないの、部屋に付き添いがいるとけっして。だれも介護は要求しません。そして、あなたに私の弱点を告白するわ、私は盗人の恐怖にとり付かれているの。私たちの家が盗人に襲われたことがあって、二人の召使いが死んだわ、だから、いつもドアに鍵をかけるのよ。それはもう癖になっていて――許してくださいね。そこに錠前の鍵があるのをみつけたわ」

彼女は少しの間彼女のきれいな腕の中へ私を強く抱きしめ、それから私の耳へ囁きました、「おやすみ、愛しい人よ、あなたと離れるのは難しいことよ、でもおやすみなさい。明日、そんなに早い時間ではないけれど、また会いましょう」

彼女はため息をついて枕の上に仰向けに沈み、彼女の素敵な目は愛情をこめ愁いを帯びた凝視で私を追いました。そして、彼女は再び「おやすみ、親愛なる友人よ」と囁きました。

衝動的に若者は人が好きになり、愛しさえします。私は彼女が私に示す明白な、幾分不相応な、愛情にうれしく思いました。私は、彼女がすぐに私を受け入れた信頼が好ましく思いました。彼女は私たちが非常に親しい友人同士になるべきだと決心していました。

次の日が来ると私たちは再び会いました。私は私のお相手役(友人)について、そう、多くの点で喜びました。

彼女の美しい容姿は、日の光の中でも失われませんでした――彼女は確かに、私が見た中で最も美しい少女(創造物)でした。そして、私の幼い頃の夢に現れた不快な顔の記憶は、最初の予期しない認識の影響を失っておりました。

彼女は私を見たときに同じようなショックを受けたことと、そして、ちょうど彼女への私の賞賛と混ざっていたのと全く同じかすかな嫌悪感について告白しました。私達は、私達の瞬間的な恐怖のことを話題にして、今や一緒に笑いました。


©2008 山本雅史. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。