「ロンドンの貧困層の住居に対してどんな改革がなされても、ロンドン全市がその人口すべてに対し、新鮮な空気を供給できないし、健全なレクリエーションに求められる空地を十分に供給できないのは、相変わらずの真実である。ロンドンの過密への対処方法がまだ求められている。(中略)ロンドンの人口階層の中には、いなかに移住させたほうが長期的には経済的にメリットがあるものがかなり存在している。それは移住した者と、残った者の双方にメリットがあるだろう。(中略)ロンドンの衣服製造業で雇われている15万人ほどの労働者のうち、その大多数はきわめて低賃金で、あらゆる経済的な理由から見て、地代の高いところで行われるべきではないような作業をしている」――アルフレッド・マーシャル教授「ロンドン貧困層の住居」Contemporary Review 所収, 1884
前章では、圏域の農業地から期待できる歳入総額を9,750ポンドと見積もったので、こんどは市街地を見てみよう(ここでは明らかに、農地を市街化することで地価が大幅に上がることになる)。そして、またもや過大な推計をしないよう十分にゆとりを持った想定をするように注意しつつ、市街地部分のテナントから自主的に提供される「税・地代」の額を概算してみよう。
市街地部分の敷地は1,000エーカー あって、それが4万ポンドの値段で、その利息が4%で年1,600ポンドになる、ということは頭に入れておいてほしい。この総額1,600ポンドは、町の住民が全員で支払うように要求される、地主地代だ。そしてそれ以上の追加の「税・地代」はすべて、「積立金」として購入費用の償却にあてられるか、あるいは道路や学校や水道の建設維持など、自治体の用途のために適用される「地方税」になる。したがってこの「地主地代」が一人頭でどれくらいになるか、そして市民の支払いによってコミュニティがどのくらいの金額を確保できるかを見てみると、おもしろいだろう。さて、年間の利息または「地主地代」の1,600ポンドを30,000(町の予想人口)で割ると、男、女、子どもそれぞれの一人あたりの支払い額は、0.06ポンド(訳注:原文では1シリング1ペンス。ほらごらん、どのくらいだか見当もつかないだろう)よりもいささか少ないくらい。徴収される「地主地代」はたったこれだけだ。これ以上徴収される「税・地代」はすべて積立金や地元の用途に使われる。
さて、この運のいい位置にあるコミュニティが、こんな少額でいったいなにを獲得したのかを見てやろう。一人頭年額0.06ポンドで、まずは家屋のための十分な敷地が手に入る。これはまえに見たように、平均で20フィート✕130フィート(7m✕43mほど)で、敷地一筆に平均で5.5人が暮らしている。道路用地もたくさんあるし、道路の一部は壮大きわまる幅員で、実にゆったり広々としていて、日光や空気が自由に出入りして、さらにそこに木々や茂みや草が植わり、町になかばいなかのような様相をもたらしてくれる。また市役所、公共図書館、美術館や画廊、劇場、コンサートホール、病院、学校、教会、水泳浴場、公共市場などにも十分な用地がある。さらには70ha(142エーカー)の中央公園、さらに幅員140mで全長5km弱のすばらしいアベニューが、広々とした大通りと交差したり、学校や教会があるところをのぞけば途切れることなく続く。そうした学校や教会も、敷地に支払う金がこんなに少額だからといって、その美しさはまったく見劣りしないものになるだろう。また町をぐるりと取り巻く、全長7.2kmの鉄道用地も確保できる。倉庫や向上や市場のために40ha(82エーカー)、さらにはショッピング専用で温室も兼ねる水晶宮のためのすばらしい敷地もある。
したがってすべての建物敷地が賃貸される賃貸契約は、各テナントがその土地にかかる地方税や国税、割付金などをすべて支払わなくてはならないという、通常の条項を含んでいない。逆に、地主は受け取った金額を、まずは担保債券の利払いにあてて、次に債券の償還にあて、第三に残金のすべてを公有基金に入れて公共目的に供する、という地主に対する条項が入っている。その公共目的というのは、その自治体以外の市などからかかる税金支払いなども含む。
こんどは、この市街地部分について予想される税・地代の額を推定してみよう。
まずは住宅建設用の敷地から考えよう。そのすべてはすばらしい立地だが、特にグランドアベニュー(幅員140m)と壮大な大通り(幅員30m)に面したものが、たぶん一番高い賃料になるだろう。ここでは平均値しか扱わないけれど、住宅用地で道路に面した30cmあたり0.3ポンドという税・地代というのがきわめて低額だ、というのはだれでも認めてくれると思う。すると道路の前面線6.7mの建物の税・賃料は、平均で年6ポンドとなり、そしてこれをもとにすると、建物敷地は全部で5,500あるから、年間グロスの歳入は33,000ポンドとなる。
工場や倉庫、市場などの税・地代は、道路前面長ではうまく推定できないかもしれないけれど、平均的な事業者なら、雇い人一人あたり2ポンドなら喜んで払うと考えておけば無難かもしれない。もちろん、税・地代を人頭税にしろと主張しているのではない。金額はまえに述べたとおり、テナント同士の競争によって決めるべきだ。しかしながら、こうして税・地代を推定するというのは、製造業者などの事業者、協同組合、あるいは独立事業者たちが、田園都市にくることで自分のいまの所在地に比べて地代やコストが安上がりになるかどうかを判断するための、簡便な手段になるかもしれない。しかし、ここで問題にしているのは平均なんだということは、はっきりと念頭においてほしい。だからこの数字が大雇用主にはとんでもなく高いように見える一方で、小店主にはとんでもなく安く見えてしまうこともある。
さて、人口3万人の町では、16~65歳 の人口は約2万人になる。そしてそのうち10,625人が工場や商店や倉庫、市場など、自治体から賃貸される何らかの宅地以外の敷地利用を伴う仕事で雇われるとすると、ここからの歳入は21,250ポンドになる。
したがって全圏域からの歳入は次の通りだ:
農用地からの税・地代(農業歳入の説明参照) | 9,750ポンド |
一筆6ポンドとして5,500筆からの税・地代 | 33,000ポンド |
事業地からの税・地代、10,625人で2ポンド/人 | 21,250ポンド |
合計 | 64,000ポンド |
あるいは、税と地代で一人頭2ポンドほどだ。
この金額の使途は以下のとおり:
地主地代、つまり土地代240,000ポンドの利息4% | 9,600ポンド |
元金返済用積立金(30年) | 4,400ポンド |
その他、地方税から支払われる各種の使途 | 50,000ポンド |
合計 | 64,000ポンド |
ではこんどは、50,000ポンドで田園都市の自治体としてのニーズに十分かを検討することが重要となる。