フランク・ラムゼイからウィトゲンシュタインへの手紙, フランク・ラムゼイ

一九二三年十二月二十日


親愛なるウィトゲンシュタインへ

お手紙どうもありがとう。体調がすぐれず気分も憂鬱とのこと、気の毒に思います。

さて、まず最初に、50ポンドはケインズから出ています。彼は、このことを直截に言わないよう私に釘をさしました。というのも、彼があなたに一度も手紙を書かなかったので、あなたが知らない人からお金を受け取るよりも、彼から受け取ることを快く思わないのではないかと恐れているからです。彼がなぜ手紙を書かなかったのか、私には分かりませんし、彼も説明できません。彼はそれについて何か「コンプレックス」があるに違いないと言っています。ケインズは、あなたのことを暖かい愛情をもって話しますし、あなたに再会することを熱望しています。そのことは別として、もしイギリスへいらしたいと思うなら、彼はあなたがお金の問題でそれができない事態にはしたくないと考えています。彼は潤沢な資金を持っています。

社会に適応できないのではないかというあなたの不安は、大変よく理解できます。しかし、あまり深刻に考えてはいけません。私はケンブリッジでのあなたの住まいを見つけることができると思います。あなたは、好きな人、あるいは好きになれそうだと感じる人以外に会う必要はないのです。多くの人々と一緒にいる時間が多いので、彼らと過ごすことが難しいと言われるのは分かります。ですが、一人で生活すれば、次第に社会へ慣れていくことができるでしょう。

人々をうんざりさせたり、悩ませたりするのではないかというあなたの不安は的中していると、私が言っているとは受け取らないでください。なぜなら、私自身が、本当にあなたに会いたいと思っているからです。ただ、どうしても不安だとおっしゃるなら、最初は誰とも一緒に住まず、一人で生活すれば問題ないだろう、と言いたいだけなのです。

50ポンドでどのぐらいの期間ケンブリッジで暮らせるか、私には分かりません。しかし、来ていただく価値のあるぐらい長い期間であることは、間違いないと思います。

フレーゲは、最近ではますます読まれるようになっていると思います。ヒルベルトワイルという二人の偉大な数学者が数学の基礎について書いていますが、彼らはフレーゲに賛辞を贈っており、実際、ある程度は彼を評価しているようです。

私がこれらの問題を全て解決したと考えたのは、愚かなことでした。私はいつも解決を見つけては、それが間違いであったことを悟る、その繰り返しです。(ムーアも同様です。)近く、これらの問題について、あなたに詳細を書き送ろうと思います。ですが、あなたから見れば、私の議論は馬鹿馬鹿しく映るのではないかと思うと不安です。私は、∃x:fx.x=a について本当の困難があるとは考えていませんでした。このことはつまり、あなたの同一性の理論に対する反論でした。しかしそれをどう表現していいか分かりませんでした。なぜなら、私は、もしxとaが同じ命題に現れるなら、xは値aを取ることはできないという、馬鹿げた思い込みに捕われていたからです。また、それを表現することが不可能であって欲しいと思う理由もありました。しかし、今から2週間以内に、これを完全に説明することを試みようと思います。というのは、これらの物事について整理することは私にとって有益に違いありませんし、あなたが私に正しい方向を示すことができ、またあなたも興味を惹かれるのではないかと思うからです。あなたの興味を惹くような重要なことを私が持っていればと思うのですが、残念ながらそれがありません。

私は、集合論における 2À0 = À1 または 2À0 ≠ À1 であるという命題を証明しようと多くの時間を費やしてきました。しかし未だに成功していません。

ところで、あなたの甥のストンボロウに会いました。彼は好ましい人物でした。

ラッセルはアメリカに講演に行くと聞いています。あなたの体調が回復して、これ以上心身ともに辛い状態が続かないことを祈ります。そしてどうぞイギリスへ来てください。

草々
フランク・ラムゼイ

fa. ⊃ .(∃x,y) . fx . fy : ~(∃x)fx. という式を送っていただいたこと、感謝します。


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