フランク・ラムゼイからウィトゲンシュタインへの手紙, フランク・ラムゼイ

一九二四年二月二十日


トリニティ

親愛なるウィトゲンシュタインへ

お手紙どうもありがとう。は、もう今年の夏あなたにイギリスへ来ていただくことは望みません。というのは、あなたに喜んでいただけるかどうかは別として、この夏の一部、もしかしたら全部を使って、私の方がウィーンへ行こうと思うからです。いつ、どのぐらいの期間になるかは正確には言えませんが、多分来月になると思います。もうすぐ会えることを期待しています。

私がウィーンへ行こうと決心したのには、いくつか理由があります。私はケンブリッジに永住するつもりですが、これまでずっとこの地に住んでいたので、初めて少しここを離れてみたいと思ったのです。そして今、6ヶ月間のチャンスを得たというわけです。さらに、ウィーンで暮らせば、ドイツ語を学ぶことができますし、あなたに頻繁に会いに行くこともできます(あなたが嫌でなければですが)。そうすれば、私の仕事について議論できるので、とても助かります。また、私はこれまでのところ、気分が憂鬱でほとんど仕事が手につきませんでした。私には、フロイトが記述する [精神病の] 徴候の幾つかによく似た徴候が当てはまります。そこで、思い切って精神分析を受けてみようと思うのです。ウィーンは、そのためには非常に便利でしょう。そのようなわけで、私は6ヶ月間の滞在をすることになりそうです。しかし、あなたがこのことに賛成してくれないのではないかと懸念しています。

ケインズは、まだあなたに手紙を書くのを渋っています――本当に優柔不断です。ですが彼は(私と違って)、フロイトの世話になるような深刻な障害とは無縁です! 彼はあたながイギリスへ来て再会することを熱望しています。

ジョンソンとは長らく会っていませんが、近いうち彼の妹とお茶をする予定です。彼の調子が悪くなければ、彼にあなたからよろしくあったことを伝えておきます(前回訪れたときは病気でした)。彼の『論理学』第3部がもうすぐ出版されます。因果関係がテーマです。

あなたが周りの環境との格闘に力を使い果たしてしまうということを、気の毒に思います。他の教師たちと一緒に過ごすというのは、恐ろしく困難なことに違いありません。あなたはこの先もプッフベルクにとどまるつもりですか? 以前お会いしたときには、もし不可能でなければ、そこを離れて庭師になるという考えをお持ちでしたよね。

私は自分の仕事について書くことはできません。自分の考えが曖昧なときにそれをするのは一苦労です。それに、もうすぐあなたに会いに行くのですから。どちらにせよ(?)、私はほとんど成果をあげていません。唯一の例外は、かなり枝葉末節のものですが、ラッセルのタイプ理論を不必要に複雑にしていた、いくつかの矛盾について適切な解決を与えたことぐらいです。この矛盾のせいで、ラッセルは還元公理を使わねばならなかったのです。私は数週間ほど前、ラッセルに会いました。そのとき、『プリンキピア』の改定版に追加される原稿を読ませてもらったのですが、あなたがそれを取るに足らないものだと言うのは、全く正しいことです。見るべきところと言えば、還元公理を使わずに数学的帰納法を小器用に証明していることぐらいです。根本的には今までと何の違いもなく、同一性についても前のままです。私は、彼は年を取りすぎたと感じました。彼は個々の話題については理解して「うん」と言っているようでしたが、3分後には元の話に戻ってしまうほど良く覚えていません。あなたの仕事全体について、彼が唯一受け入れているように見えるのは、名詞が置かれるべき場所に形容詞が置かれるのはナンセンスであるということは、彼のタイプ理論に役立つ、ということだけです

彼は、曖昧さが物理世界の一つの特徴であると言ったことなどない、と言って酷く腹を立てていました。

彼には二人の子供がいて、今は子育てに忙殺されています。私は彼がとても好きでした。彼は、本当は『意味の意味』を重要だとは考えていませんが、売上に貢献してオグデンを助けてやりたいと思って、書評を書きました。あなたが見た引用はその書評からのものですが、政治的な配慮から迂遠な表現になっています。

先日、ムーアと長い議論を交わしました。彼は私が期待していた以上にあなたの著作をよく理解していました。

数学の基礎についての仕事がうまく進んでいなくて残念です。幾つかのアイデアは持っているのですが、まだはっきりとした形にはなっていません。

あなたが元気になって、今の環境の中で可能な限り幸せであってほしいと思います。もしかしたらもうすぐ会えるかもしれないと考えると、とても楽しみです。

草々
フランク・ラムゼイ


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