その夜、家に戻るとペリーはレスターとスザンヌが一緒にいるところに出くわした。二人はリビングルームのカーペットの上で絡まり合いほとんど裸同然だった。ドアを通り抜けたところでペリーは紅潮したレスターの尻を目にするはめになったのだ。
「すまん、すまん!」レスターはソファークッションをつかんでそれをスザンヌに投げて渡しながら叫び、さらに自分用にもう一つクッションをつかんだ。ペリーは目をそらして笑わないようにがまんした。
「なんてこった。君ら。ベッドルームに何か問題でもあるのか?」
「最後はそうしようと思っていたんだよ」スザンヌが立ち上がるのを手助けしながらレスターが答えた。ペリーは大げさに顔を壁の方に背けた。「あのギャングどもと一緒に夕食に行くんだと思ってたよ」レスターが言った。
「ライドのあたりは大騒ぎだ。何もかもが変わっちまってプリンターは樹脂切れを起こしてる。ネットワーク上で大量の活動があったんだ……ボストンとサンフランシスコで大量の新しい展示品がライドに追加された。それはそうとゲストハウスに行ったらケトルウェル一家は既に子供を寝かしつけていたぞ」エヴァがスザンヌに怒りを爆発させていたことは言わないと決めていた。ケトルウェル家で問題が持ち上がっていることに彼女がもう気がついていることは間違いなかった。
スザンヌが咳払いをする。
「すまない、すまない」レスターが言った。「このことについては後で話そう。いいか? 本当にすまない」
二人が急ぎ足でレスターの部屋に消えたのでペリーはコンピューター端末を取り出すとシャッフルモードでおもしろ短編動画を流し、スペアパーツが詰まった大きな容器をつかむとそれをいじり始めた。なで回して分析したり複雑なメカニズムに組み立て直したりするのだ。そうすると時にそこからアイデアを得ることができる。
五分ほどするとシャワーの音が聞こえた後、スザンヌがリビングルームに入ってきた。
「何か食べるものを注文するわ。あなたは何がいい?」
「何にしてもファトキンス向けのところに注文したほうがいいだろうな。レスターに食わせるなら他の所じゃ荷が重い。俺には小さなチキンティッカピザを」
彼女はキッチンに積まれていたメニューを念入りに読んだ。「ダズ・フード・イン・トゥエンティー・ミニッツ。ここは本当に二十分で配達してくれるの?」
「普段は十五分だな。ほとんどの準備をバンの中でするうえ、数学的予測方法を駆使して配達路決定をやってる。だいたいいつもここから十分以内の所にはバンがいるってわけさ。交通状況に関係無しに。交通渋滞の時だってスクーターで配達する」
スザンヌは顔をしかめた。「ロシアも変わっていると思ったけど」彼女はパンフレットの数字を携帯電話のカメラで読み取ると注文を始めた。
レスターが部屋に入ってきたのはそれから一分ほど後だった。いつものようにめかしこんでいる。ベッドルームに入ると着替えをせずにはいられないのだ。
彼が少しいらついたようにペリーを一瞥したので悪いことをしたとは少しも思っていなかったがペリーはすまなそうに肩をすくめた。こいつはレスターのミスだ。
キリストもびっくりだ。この二人ができていてしかも欲情したティーンエイジャーのようにリビングルームのじゅうたんの上でことに及ぼうとするとは思いもよらなかった。彼らの小さな家族の中でスザンヌはいつだって大人の役目を演じていた。だがそれは大企業が関わっていた頃の話だ。大企業の歯車になっているときには大人らしい振る舞いを演じたくなるものだ。いったんフリーの身になれば衝動を拒む理由など無い。
食事が到着すると二人はまるで腹をすかした犬のようにかぶりついた。きまりの悪さなどとっくに忘れ去っている。燃料補給が終わったらまた二人がベッドルームへひけこもるつもりなのは明らかだった。ペリーはそっとその場を立ち去った。