翌朝、ペリーと二人は朝食の席で再び顔をあわせた。スザンヌはエスプレッソマシンをいじっているところでラテのために用意された豆乳からは湯気が立ち昇っていた。彼はレスターのぶかぶかの引きひもパンツに古いモーターオイルのシミがついたカンザスシティーのバイク屋のTシャツという格好だった。
「おはようさん」彼が言ってレスターの肩に手をおいた。その態度はどこかぎこちなく、スザンヌはさあきた。さよならを言うつもりだ。ペリー・ギボンズのろくでなしめと思った。
「おはよう」レスターが空元気の明るい声で答えた。
ペリーは医療用でない食品が入ったスザンヌの棚をしばらくさぐってトースト用のベーグルとピーナッツバターのびんを取り出した。誰も口を開かない中、彼は大きなパンナイフとまな板を探し出し、ベーグルを焼き、ピーナッツバターを塗ってかじりついた。居心地の悪い沈黙の中、スザンヌとレスターはただ食事を続けた。彼に言わなきゃスザンヌは黙ったまま促した。けりをつけるのよ。まったくいまいましい
「乗るよ」ペリーが口いっぱいにベーグルを頬張ったままそっぽを向いて言った。
彼の目の下に濃いくまができていることにスザンヌは気がついた、まるで一晩中、一睡もできなかったとでもいうようだ。
「ここに留まる。もし君らが良ければだけど。何かを作ろう」
手にしたベーグルを下において口の中のものを飲み込む。彼がレスターの方に向き直り、二人の年老いた戦友は長い間、見つめ合った。
レスターが笑った。「いいぞ!」彼は足をひきずり、痛む腰をかばいながらステップを踏んで踊った。「いいぞ相棒、最高だ! やったぜ!」
彼女はゆっくりと気配を殺して部屋から出て、あとは二人に任せようとした。しかしレスターが彼女の手をとり、彼女の体を引き寄せて抱きしめた。彼女の腕を引くその力は彼女がひさしく忘れていたほど力強かった。
彼は彼女に熱烈なキスをした。「愛しているよ。スザンヌ・チャーチ」彼が言った。「君は俺の救世主だ」
ペリーが彼女の背後で楽しそうな声を上げた。
「私も愛しているわ。レスター」彼のやせ細った折れてしまいそうな背中を抱きしめながら彼女は言った。
レスターが彼女を解放すると彼女はペリーに向き直った。彼の目からは涙があふれ、気がつくと彼女も涙を流していた。彼女は彼を抱きしめた。彼の体はいつだったか昔、フロリダで抱擁を交わした時とは違う感触がした。少し太ったがまだその体は固く引き締まり、昔と同じ匂いがした。彼女は唇を彼の耳に近づけるてささやいた。「あなたはいい人だわ。ペリー・ギボンズ」