「王様の征服」(古い銅版画)
煉瓦と瓦よ
恋人たちのための
おお すてきな
ちいさな隠れ家!
ホップと葡萄よ
葉っぱと花よ
あけすけな呑兵衛どもの
すばらしい屋台!
あかるい酒場よ
ビールと喧騒
煙草吸いどもには
かわいいお女中!
近くの停車場
愉快な大通り
これはしめたぞ
善きさまよえるユダヤ人!
黒い草の中を
小鬼が行く
深々と吹く風も
泣くかのようだ
どんな感じさ?
燕麦はひゅうと鳴る
茂みが平手打ち
通りすがりに目の玉を
家というより
あばら家の群れ
赤々とした鍛冶屋のつらなる
なんという地平線!
どんな臭いさ?
駅々がとどろく
目の玉びっくり
どこがシャルルロワなの?
不吉の薫りだ!
これは何なの?
何が鳴ったの
振り鈴のように?
荒々しい風景!
おお おまえたちの息
人の汗
金属の叫び声!
黒い草の中を
小鬼が行く
深々と吹く風も
泣くかのようだ
ものみなぼんやりかきけむる
ラムプの薄明りのなか
丘と斜面から消え去りゆく
緑のまじる薔薇色
目立たぬ奈落のうえで、その金色が
そっとやさしく血塗られていく
頂のない小さな木々よ
そこには鳥がか弱く歌う
ほんのわずかな哀しみをのこして
この秋の名残もかき消えて
ぼくの物思いは夢想にふける
単調な空気にゆすられて
どこまでも続く並木道
こんなに青白くて
神々しい空の下
この樹々の蔭に
かくれひそめば
気持ちいいんじゃないかい
立派な身なりの旦那衆
きっとロワィエ・コラール家とやらの
ご友人にちがいあるまい
お城のほうへ行きなさる
あんなご老人になったら
すてきだろうな
お城はまっ白
その横腹に
沈むお日さま
まわりは野原
おお ぼくらの愛は
あそこに巣をかけないの
サン・ジルとおって
ここまでおいで
ぼくのすばやい
栗毛のお馬
ヴィクトル・ユゴー
まわれ、まわれ、楽しい木馬
百回まわれ、千回まわれ
休まずまわれ、ずうっとまわれ
まわれ、まわれ、オーボエにあわせ
ふとっちょ兵隊さん、一等おでぶのお女中さん
まるで自分の部屋でのように、おまえたちの背に乗って
だって今日一日は、カンブルの森に
ご主人様はごいっしょに、ご自分たちでお出かけだ
まわれ、まわれ、ふたりの心の馬よ
おまえさんたちの騎馬戦のまわりでは
ひそんだ掏摸が目を細めてる
まわれ、威勢のいいコルネットにあわせ
こんなばかげた曲馬乗りだって
酔っぱらったみたいにいい心地
お腹はいっぱい、頭はがんがん
わるいことが山盛りなら、いいことだって沢山だ
まわれ、まわれ、拍車なんて
そんなものがなくたって
お命じのままに速足でまわる
まわれ、まわれ、秣のあてはなくたって
急いで、ふたりの魂の馬よ
ほらもうすぐ夜が来る
雄鳩と雌鳩、さあ身を寄せあおう
縁日からも離れ、奥方からも逃れ
まわれ、まわれ、ビロードの空は
ゆっくり金色の星を身にまとう
恋人どうしがさあお出かけだ
まわれ、太鼓の楽しい響きにあわせ
牧場のほうへ、風がけんかを売りにいく
煉瓦は赤で屋根は青の
どっかのお役人のお屋敷の
作りも見事な風見鶏を相手に
明るい牧場のほうへ、果てしもない牧場のほうへ
妖精の国の木々のように
とねりこの木々、ぼんやりと葉の茂みが
牧草地のサハラに
千もの地平に重なって
しろつめくさ、うまごやし、白い芝
この穏やかな風景のなかを
客車は静かに矢のように走る
眠れ、牝牛たち、憩え、
広い平原のおとなしい牡牛たちよ
わずかに虹の色に耀く空の下で
列車は音もなく滑べりいく
客車はそれぞれ応接間のよう
みんなは静かに語らいながら
フェヌロン好みに仕上がった
この自然を心ゆくまで愛でている
あなたはまるで忍耐がない
それは不幸にしてよくよくわかっていること
あなたはあまりに若い! それに気楽さ
それは天使のような年齢の苦い分け前!
あなたはまるでやさしくない
それも不幸にしてわかっていること
あなたはあまりに若い、おおぼくの冷たい愛しい女
あなたの心はつれないはずだ!
だから、ぼくは清らかな許しの心でいっぱいだ
喜んじゃいないのはむろんだが、けれどつまるところ平静に
この災厄の月々を、あなたのおかげで
世にも不幸な男と嘆いてはいるものの
それにあなたはわかってるだろう、ぼくが正しかったのだと
ぼくたちの暗黒の瞬間にぼくが言ったとき
ぼくたちの昔の希望の住処だったあなたの眼は
もはや裏切りしか宿してはいないと言ったとき
あなたは嘘なのに誓った
自らを偽るあなたの眼ざしは
消えいく火がかき立てられたように燃え上がり
そして、あなたの声が言ったのだ「愛しているわ」と
ああ、人はいつもとらわれる
機も熟さぬに幸せでいたいという欲望に……
しかしそれは苦い喜びに満ちた日だった
ぼくが自分が正しいと気づいたときは
ともかく、なんでぼくは愚痴をこぼすのだろう
あなたはぼくを愛さなかった、事の結末はこれなのだ
それに、ぼくは誰にも哀れんで欲しくはないから
断固とした気持ちで耐え忍ぼう
そう、ぼくは苦しもう あなたを愛していたのだから
けれど、ぼくは苦しもう 善良な兵士のように
恩知らずなどこかの国をひたすら愛して
傷ついて永遠の眠りにつくその兵士のように
ぼくの恋人、ぼくの愛しい人だったあなた
まだあなたはぼくを苦しめようとする
あなたはこうして、まだぼくの祖国ではないのか
フランスのように、かくも若くかくも狂気じみた祖国では
ところで、ぼくはのぞまない――そもそもそんなことができるのか
ぬれた眼差しでこの思いにひたることなど
けれど、あなたが死んだと信じたぼくの愛は
ついにその目を見開くようだ
思い出でしかないぼくの愛は
とはいえ、あなたに打たれて血を流し、涙にくれ
さらにまた、思うに、そのことで死ぬまで
ながく苦しまねばならないのだろうが
そうではないかと思うのは、きっと当然のこと
あなたの中に悔恨(それも並みのものではないような)を見るのではと
そして絶望にかられて、あなたの記憶に
「あ! ちぃ! 悪いことしたわ」と言うのを聞くのではと
まだぼくにはあなたが見える ぼくは半ば扉を開ける
あなたは疲れたようにベッドにいた
おお 愛が運ぶ軽い肉体よ
あなたは裸ではね起き、嘆いては喜んだ
おお なんという口づけ なんという無我夢中の絡み合い!
ぼく自身、そのことに涙をながしながら笑っていた
たしかに、この瞬間はあらゆる時のなかで
ぼくの一番哀しい、けれど同じくらい幸福な時だ
ぼくは思い出したくはない あなたの微笑の
それにあの時のあなたのすてきな目の
そしてついには呪われるべきあなたの
また快い罠の 見せかけだけは
まだぼくにはあなたが見える! 生垣の
花の模様の白と黄との夏の服で
けれど、あなたにはもうあのしっとりとした快活さはなかった
ときに二人して有頂天となったあの快活さは
かわいい花嫁と姉娘は
おめかしをして現れた
そしてぼくたちの運命はもう
あなたのヴェールの下からぼくを見つめていたのだ
赦されてあれ! そのために
ぼくは護るのだ ああ! いささかの誇りをもって
あなたを甘やかしたぼくの思い出のなかで
あなたの眼がわきに流したあの光を
ときおり、ぼくは哀れな船となり
嵐のただ中に帆柱を折って走りいく
そして、聖母が光るのも見えず
祈りながら、ただ海に呑まれようとする
ときおり、ぼくは罪人の死をとげる
慚悔しなければ地獄落ちの罪人の死を
そして、慚悔僧のあてもつかぬまま
自ら進んで、地獄で身をよじる
おお しかし! ときおり、ぼくは赤い陶酔にひたる
証人イエスに微笑みかけて
身の毛の一本、顔の筋ひとつ動かさず
野獣の歯にかかった最初のキリスト教徒の陶酔に!