冬がかけ足でやって来ました。二月のある晴れた日、ふとっちょあらいぐまはひなたぼっこのあたたかさを楽しもうと、お母さんの家からはい出しました――それから、食べ物をさがそうとして。
秋からくらべると、ふとっちょはずいぶんとやせ細っていました。たいそう多くの時間を眠ってすごし、じつにほんのわずかしか食べていなかったのです。今のふとっちょは、わき腹を見ると、われながらとても自分だとは思えませんでした。もはやかつてのように出っぱっていませんでした。
午後じゅうかかって沼や森をかぎ回ったすえ、この辺りでごはんを手に入れようとするのは無駄なことだととうとうあきらめました。地面は雪でおおわれていました。うさぎの足あと以外は――そして数匹のリスのものと――食べ物のありかを示すものはなにも見つけられませんでした。そんな足あとを見ると、ますますお腹がすいてしまうだけでした。
しばらくの間、ふとっちょはじっくりと考えました。そして彼はくるりと向きをかえ、農夫のグリーンの家のほうにまっすぐに歩いていきました。農夫のグリーンの家をかこう柵のかげで、ふとっちょは待ちました。そして暗くなり始めると、庭をこっそりと横ぎっていきました。
丈の低い、小さな建物のそばを通りかかったところで、ふとっちょはおいしそうなにおいに気がつき、ぴたりと足を止めました。彼はじゅうぶんすぎるほど弱りきっていました。建物のとびらがほんの少し開いていました。辺りをすばやく一べつしたのち――確かにだれもいないようにふとっちょは思いました――中にすべり込みました。
農夫のグリーンのくんせい小屋の中は――この丈の低い、小さな建物は、そう呼ばれていました――ほとんど真っ暗でした。ですがふとっちょは、わたしやみなさんが昼なかに見るのと同じくらいに、真っ暗がりがよく見えました。そこにはハムがきちんと長い一列にならべられて、ずらりとぶら下がっていました。その足もとの地面には白い灰がありました。農夫のグリーンがハムをいぶすのに火をおこしたあとでした。ですが今は火は消えており、ふとっちょがやけどをする心配はありませんでした。
ふとっちょあらいぐまは、前にもハムのにおいをかいだことがありました。ハムはふとっちょがいつか食べてやろうと考えていたものでした。彼は、ここにあるハムを全部たいらげてやろうと決心しました――もちろん、そんなことは絶対にできっこありません――少なくとも、一晩では無理です。一週間でもだめです。けれども食べるときがくれば、ふとっちょは決してひるまないのです。もしもそんな機会があれば、彼はゾウだって食べようとするでしょう。
ふとっちょはハムの列をながめて立ちつくしていたりしませんでした。小屋のすみの柱をかけ上り、ハムをつるした横棒をつたっていきました。
一番こちらがわにあるハムのところにたどり着くと、ふとっちょは立ち止まりました。これ以上考えることなんてありません。ハムの上に下り立つと、またたく間においしいひと口を大きく噛みちぎりました。
ふとっちょは満足にしっかりと食べることができませんでした。ふた口目を食べたかったのですが――とてもお腹がすいていましたので。けれどもしっかりと食べられたのは、たったのひと口だけでした。彼はハムにたちまちのうちに大穴をあけました。食べるのを止めようなんて考えてはいませんでした。けれど止めました。ひどく唐突に止めました。はじめ彼が思ったのは、なにかに床に投げ落とされたということでした。それから、ハムが彼のお腹の上に落ちてきたので、あやうく失神しかけました。
ふとっちょはむせてせき込みました。灰が口や目や耳にまでいっぱい入ってしまったのです。しばらくの間、彼はあお向けにひっくり返っていました。しかしすぐさまお腹の上の重たいハムをなんとか蹴りのけ、少し正気を取りもどしました。けれども、彼はひどくおびえていました。目がずきずきと痛んでよく見えなかったというのに、飛び起きてとびらを見つけ、かけ抜けました。
内庭をいちもくさんにかけ抜ける間に、ふとっちょは口一杯に灰を吸い込んでしまいました。家が見えるまで、一度も走る足を止めませんでした。彼は混乱していました。なにに床に投げ落とされたのか、考えてみましたがわかりませんでした。お母さんにこの冒険のことを話しますと――まる一か月後のことでしたが――彼女にも、なにが起きたのかはっきりとはわかりませんでした。
「わなの一しゅだったのかもしれないね」とあらいぐま夫人は言いました。
けれどあらいぐま夫人はまたまた間違っていました。
じつに単純なことでした。食い意地がはってあせったふとっちょは、横棒につるしたハムをゆわえたひもを食いちぎってしまっただけだったのでした。当然ながら、ハムはたちまち落っこち、上に乗っていたふとっちょも一緒に落っこちたのでした!
けれど、みなさんはこれをどう思います? のちにふとっちょが大人になり、子どもを持つと、農夫のグリーンのくんせい小屋のわなから脱け出したときのことを、しばしば子どもたちに語ってきかせました。
ふとっちょの子どもたちは、このお話にたいそう興奮しました。彼らのお気に入りのお話でした。そして、何度も何度もくり返しねだって、父親にお話させたのでした。