眠れる者の目覚め, ハーバート・ジョージ・ウェルズ

評議会議事堂での争い


評議会議事堂の周りの廃墟を急ぐ間にも、アサノとグラハムはあらゆる場所で蜂起する人々の興奮する様子を目にした。「守りを固めろ! 守りを固めろ!」あらゆる場所で青い服を来た男女が、どことも知れぬ地下の作業場から急いで走り出して、中央の通りの階段を駆け上った。ある場所ではグラハムは叫び声をあげる群衆に取り囲まれた革命委員会の武器庫を見たし、また別の場所では労働警察の憎むべき黄色い制服を着た数人の人間が集まった群衆に追われて、反対方向に進む高速道の上を大慌てで逃げていく様子を目にした。

「守りを固めろ!」というわめき声は、政府地区に近づくにつれて増え、ついには絶え間ない叫びへと変わった。叫び声の多くは不明瞭なものだった。「オストログは俺たちを裏切った」一人の男がしわがれた声で何度も何度も吠え立て、グラハムの耳に鳴り響いたその声はずっと彼の頭から離れなかった。この人物は高速道の上にいるグラハムとアサノのすぐそばにいて、下層のプラットフォームを動き回る人々に向かって叫び続けながら、彼らのそばを走り過ぎていった。オストログに対するその叫びは何か理解しがたい命令と交互に繰り返されていた。しばらくすると男は下へと飛び降りていってその姿を消した。

グラハムの頭はその反響で満たされていた。彼の計画はあやふやではっきりしないものだった。一つの青写真は群衆に話しかけられる何か指揮官のような地位に就くことで、もう一つはオストログと直接会って話し合うことだった。彼は怒りに満たされ、筋肉が硬直するほどの興奮に襲われていて、その手は握り締められ、唇は固く結ばれていた。

廃墟を横切る評議会議事堂へ続く道は通行できなかったが、この難題に直面したアサノはグラハムを中央郵便局の建物へと連れて行った。郵便局ではいつも通り仕事がおこなわれていたが、青い服の荷物運搬人の動きは緩慢で、時に足を止めて自分のいる空中廊下のアーチから外を通り過ぎていく叫ぶ人々を見つめていたりした。「みんな、守りを固めろ! みんな、守りを固めろ!」アサノのアドバイスに従ってここでグラハムは自らの正体を明かした。

ロープウェイで彼らは評議会議事堂へと渡った。評議員の降伏から間もないのに廃墟の外観には既に大きな変化が起きていた。破裂した海水用の水道管から吹き出していた滝は止められて修復され、巨大な仮設管が頼りなさそうな木材の骨組みに沿って頭上を走っている。空には評議会議事堂へと続く修復されたケーブルやワイヤーが張り巡らされ、そこを新しい建材の一群がクレーンやその他の建設機械とともにこの白い山の左側へと送り出されていた。

この区画を横断して走る動く道は修復され、少なくとも今のところは青空の下を走っていた。それはグラハムが目覚めた時にあの小さなバルコニーから目にした道で、あれから九日も経ってはいなかった。彼が昏睡状態にあったホールは向こう側にあったが、そこは今では見る影もなく打ち壊されて粉々になっていて、がれきの山がうず高く積まれている。

すでに日は高くのぼり、太陽がまばゆいばかりに輝いていた。青い電気の光がもれ出る背の高いほら穴から大勢の人間でごった返す高速道が現れ、わき出すように道から降りた人々は廃墟の周囲の残骸と人混みの間にますます密集していった。あたりは叫び声に満ちていて、人々は中央の建物に向かってもみ合いながら進んでいた。ほとんどの場所では叫び声をあげる群衆は流動的に群れ動いていていたが、あちらこちらで荒削りな規律が自ら立ち上がろうと奮闘しているのがグラハムには見て取れた。どの声もこの混乱の中で秩序を要求していた。「守りを固めろ! みんな、守りを固めるんだ!」

ロープウェイは彼らをホールの一つへと運んでいき、グラハムが見たところそこはアトラスの大広間へ続く控えの間のようだった。その周囲の空中廊下を彼は数日前にハワードとともに歩き、今はなき評議会に自分の姿を披露したのだ。あれは目覚めてから一時間後のことだった。今、その場所には二人のロープウェイ係員の他には誰もいなかった。その係員たちは、向かい合った座席から降りた男が「眠れる者」であると気づいてとても驚いているようだった。

「オストログはどこです?」彼は詰問した。「すぐにオストログと会わなければ。彼は私に背いた。彼の手から事態を取り戻すために私は戻ってきたのです」アサノを待たずに彼はその場を突っ切り、遠くの突き当りにある階段をあがって、カーテンを脇に引いた。目の前にあるのは、あの絶え間ない労苦に苦しむ巨人だった。

ホールは無人だった。初めて彼がその場所を見た時と比べるとずいぶんと様子が変わっていた。最初の暴動による暴力的な争いでそこはひどい損害を受けていた。右手側の壁の上半分にある巨大な人物画は二百フィート近い長さに渡って引き裂かれていて、グラハムが目覚めた時に周囲を覆っていたのと同じガラス状の薄い膜でできたシートが大きな裂け目に貼られていた。そのシートによって音はいくぶん弱められていたが、それでも外の人々の叫び声は完全には消えていなかった。「防衛だ! 防衛だ! 防衛だ!」そう言っているようだった。その向こうには大勢の労働者の必要に応じて上下している金属製の足場の梁や支柱が見える。赤く塗られた金属の細長い腕を備えた、停止している建設機械がこの緑色に染まった風景の中で不気味にその体を寝そべらせていた。そこではまだ大勢の労働者が下にいる群衆を見つめていた。しばらくの間、彼はそこに立ってそうしたものを見つめていたが、そこにアサノが追いついた。

「オストログは」アサノは言った。「向こうの小さな執務室にいるはずです」この小柄な男は今では鉛色の顔をしていて、その目はグラハムの顔を探るようだった。

カーテンのところから十歩も行かないうちにアトラス像の左側にある小さなパネルが巻き上がり、オストログがリンカーンを連れ、黒と黄の服を着た二人の黒人を後ろに従えて、ホールの向こう側の遠くの隅に現れた。彼らはせり上がって開いた二番目のパネルに向かっていく。「オストログ」グラハムは叫び、響いたその声にこの小さな一行は驚いて振り向いた。

オストログはリンカーンに何か言った後、一人で進んできた。

最初に話しだしたのはグラハムだった。その声は大きく尊大だった。「話に聞いたがこの状況は何なんだ?」彼は尋ねた。「黒人たちをここに連れて来ようとしているのか――人々を抑えつけ続けるために?」

「早すぎはしません」オストログが答える。「反乱以来、やつらはますます手がつけられなくなっています。私は過小評価していたようで――」

「つまりあの地獄のような黒人たちはまもなく到着すると?」

「まもなく着きます。実際のところ、あなたはあの人間たちを見たのでしょう――外で?」

「もちろん! しかし――まずは言わせてくれ。君は負担を背負い込みすぎている、オストログ」

オストログは何も言わなかったが、さらに近づいてきた。

「あの黒人たちをロンドンに連れ来てはいけない」グラハムは言った。「私が主人だ。彼らは来るべきではない」

オストログがちらりとリンカーンに目をやると、彼はすぐに二人の従者を後ろに従えてこちらへ向かってきた。「なぜいけないのでしょう?」オストログが尋ねた。

「白人は白人によって統治されるべきだ。それに――」

「あの黒人たちは手段に過ぎません」

「それでも疑問を差し挟む余地はない。私が主人だ。私が主人であることは決められたことだ。そして君に言っておくぞ。あの黒人たちは来るべきではない」

「人々は――」

「私は人々を信じている」

「それはあなたが時代錯誤だからです。あなたは過去からやって来た人間です――偶発的な出来事で。おそらくあなたはこの世界の主人なのでしょう。名目上――法的には。しかしあなたは主人ではない。主人になるための十分な知識を持ってはいない」

再び彼がリンカーンをちらりと見た。「あなたが何を考えているのか、今の私にはわかります――あなたが何をしようとしているのかも推測できる。今からでも遅くはない。警告しておきましょう。あなたは人類の平等を夢見ている――何か社会主義的な秩序を――十九世紀には新鮮で色あざやかだったそうした古くさい夢をあなたは頭の中に抱え込んでいて、自分が理解していないこの時代を統治しようとしているのだ」

「聞きなさい!」グラハムは言った。「君にも聞こえるはずだ――海のようなこの音が。声ならぬ――一つの声が。君は完全に理解しているというのか?」

「我々がそれをあいつらに教えてやったのです」オストログは言った。

「そうかもしれない。それでそいつを忘れるよう彼らに教えられるのか? しかしもうたくさんだ! あの黒人たちは来るべきではない」

しばしの沈黙が降り、オストログは相手の目を見つめた。

「彼らは来ます」彼が言った。

「私がそれを禁じているのだ」グラハムが答える。

「もう出発しています」

「私は許していない」

「ええ」オストログは言った。「残念ですよ。評議会のやり方に倣わなければならないとは――。あなた自身のためなのです――あなたは味方すべきではない――混乱の側に。それに今あなたはここにいる――。わざわざやって来てくれるとは、まったくあなたは親切だ」

リンカーンがグラハムの肩に手をおいた。不意にグラハムは評議会議事堂にやって来るという自分の失策がいかにひどいものだったかに気がついた。彼はホールと控えの間を区切るカーテンの方に振り向いた。つかみかかるアサノの手が邪魔をした。次の瞬間、リンカーンがグラハムのマントをつかんだ。

彼は向き直るとリンカーンの顔を殴りつけ、さらにその勢いのまま、自分の首元と腕をつかむ黒人の一人を殴った。身をよじって逃れると服の袖が音をたてて破れ、後ろによろめいた彼は別の従者につまずきそうになった。そして地面に激しく体を打ちつけ、ホールの高い天井を見上げることになった。

叫び声をあげて寝返りを打つと、激しく暴れまわり、従者の足につかみかかって相手を頭から横倒しにしてから必死に立とうとした。

リンカーンが目の前に立ちはだかったが、再びあごの先に重い一撃を食らわせると倒れ込んで動かなくなった。グラハムは大股で二歩進んで、そこでつまずいた。次の瞬間、オストログの腕が首の周りに巻きついたかと思うと、彼は後ろに引っ張られて重い音をたてて倒れ込み、手足を地面に押さえつけられた。さらに何度か激しく抵抗した後、彼は抵抗を止め、オストログのぜえぜえ言う喉を見つめたまま横たわった。

「おまえは――囚われの――身だ」息を切らしたオストログは勝ち誇って声をあげた。「おまえは――ひどい愚か者だ――戻って来るなんてな」

グラハムは首をひねり、ホールの壁にあるゆがんだ緑の窓の向こうで、建設クレーンに乗った者たちが眼下の人々に向かって興奮したように身振り手振りしているのに気づいた。彼らは見ていたのだ!

オストログが彼の視線を追い、はっとした。何事かをリンカーンに叫んだが、リンカーンは動かなかった。一発の銃弾がアトラスの上のブロンズ像を撃ち抜いた。裂け目に張られていた透明な材質の二枚のシートに穴が開き、その穴のふちは黒ずんで丸い形をしている。シートは骨組みに向かってすばやく垂れ下がっていき、一瞬にして評議会議場は外に向かってさらされることになった。冷たい一陣の風が裂け目から吹き込み、それに乗って外の廃墟から言い争うような声、まるで小さな妖精がぺちゃくちゃとしゃべるような音が運ばれてきた。「世界の主人を救うんだ!」「やつらは世界の主人に何をしているんだ?」「世界の主人は裏切られた!」

その時、オストログの注意が逸れてその手から力が抜けていることに彼は気づいた。腕をひねって抜け出すと、なんとか立ち上がろうともがく。次の瞬間、彼はオストログを後ろに突き飛ばして立ち上がると、オストログの喉元を手でつかんだ。オストログの手は彼の首元のシルクを握り締めていた。

しかし今度は演壇の方から男たちがこちらに向かってやって来ていた――その男たちの意図を彼は間違って理解した。視界の端で遠くにいる誰かが控えの間のカーテンに向かって走っているのが見え、次の瞬間、オストログが彼の手から抜け出し、新しく現れた者たちは彼に向かってきた。まったく驚いたことに、彼らがつかみかかったのは彼だった。彼らはオストログの叫び声に従ったのだ。

十ヤードほども引きずられて、ようやく彼はこの男たちが味方でないと気づいた――どうやら開いたパネルに向かって彼を引きずっているようだった。それを見た彼は抵抗し、地面に倒れ込もうと試み、全力で助けを求める叫びをあげた。そして今度はそれに応える叫び声があったのだった。

彼の首をつかむ手から力が抜け、そして見よ! 壁に開いた裂け目の下の隅からまず一人、そしてそれに続いて一群の小さな黒い人影が、叫び声をあげ、武器を振り回しながら姿を現したのだ。彼らは裂け目からあの静かな部屋に延びる明るい空中廊下へと飛び降りた。そこに沿って走って来る彼らはその手に握られた武器がグラハムにも見えるほどすぐ間近だった。その時、彼の耳元でオストログが彼をつかむ男たちにわめきちらし、再び彼は、自分を飲み込もうとする戸口へ彼を押しやろうという企てに全力で抗った。「やつらは降りてこられない」オストログが息を切らせながら言った。「撃ってきはしないだろう。問題ない。まだやつらからこいつを守りきれる」

ずいぶん長い時間のようにグラハムには思われたが、みにくい争いは続いていた。彼の服は十ヶ所ほども破れ、彼は埃まみれになって、片手を踏みつけられていた。自分の支持者の叫び声が聞こえ、直後に銃声が聞こえた。自分の体から力が抜け、思うように体が動かせなくなるのを彼は感じた。しかし助けは現れず、どうすることもできないまま、間違いなくあの黒く口を開いた戸口は近づいていた。

自分の体にかかる力が抜け、彼はもがくようにして立ち上がった。オストログの灰色の頭が遠ざかっていくのが見え、気がつくともはや体をつかまれてはいなかった。周囲を見渡して、そこで黒い服の一人の人物に目が止まった。緑色の武器の一つがすぐ近くでかちりと音を立て、刺激臭のする煙が彼の顔に吹きかかり、鉄の刃がひらめいた。

自分の顔から三ヤードもないところで、薄青色の服の男があの黒と黄の服の従者の一人を突き刺しているのが見えた。それから再びいくつかの手が彼をつかんだ。

今度は彼は二つの方向に引っ張られていた。まるで人々は彼に向かって叫び声をあげているようだった。何を言っているのか聞き取ろうとしたがそれはできなかった。誰かが彼の両太ももにしがみついていて、激しい抵抗にもかかわらず彼は持ち上げられようとしていた。唐突に彼は状況を理解して、抵抗するのを止めた。彼は男たちの肩に担ぎ上げられて、あの物欲しげに口を開いたパネルから離れていった。一万もの喉から歓声が巻き起こっていた。

青と黒の服を着た男たちが逃げていくオストログ側の人間を急いで追いながら発砲するのが見えた。担ぎ上げられた今、彼にはアトラス像の見下ろすホール全体が見え、自分がその場所の中央にある一段高くなった演壇へ運ばれているのだとわかった。ホールの遠くの端は彼に向かって駆けてくる人々ですでにいっぱいだった。人々は彼を見つめ、歓声をあげていた。

気がつくと彼はボディーガードに囲まれていた。周囲で動き回る男たちは何やら命令を叫んでいた。手が届くほど近くにいる黄色い服の黒い口ひげの男を彼は見た。男はあの公共劇場で彼に挨拶をした者たちの中にいた一人で、叫び声をあげて指示を出していた。ホールはすでに揺れ動く人々でひどい過密状態になっていて、小さな金属製の空中廊下は叫び声をあげる人々の重みでずり下がり、突き当たりのカーテンは引き裂かれて消え去っていて、控えの間の混雑状態が見て取れた。周囲の騒ぎの中で、彼は近くにいた者になんとか耳を貸してもらうことができた。「オストログはどこに行ったのです?」彼は尋ねた。

彼が尋ねた男は人々の頭の向こう、裂け目の反対側のホールの壁の下部にあるパネルを指した。彼らは姿をさらして立っていたが、青い服に黒いベルトを締めた武装した男たちが彼らの間を走り抜け、上の方の小部屋と通路へと姿を消した。騒乱の向こうから銃声が聞こえたようにグラハムは思った。彼は担がれたまま、ふらつくような曲線を描きなら大ホールを裂け目の下の開口に向かって運ばれていった。

荒削りな規律でもって男たちが群衆を遠ざけ、周囲に空間を作ろうとしていることに彼は気づいた。ホールを出ると、目の前の青い空の下に粗雑な新しい壁がそびえ立っているのが見えた。彼は肩から降ろされて自分の足で立った。誰かが彼の腕をつかんで彼を先導していった。あの黄色い服の男がすぐ近くにいることに彼は気づいた。彼らは狭いレンガ造りの階段へと彼を連れていき、手の届きそうなほどすぐそばに赤く塗られた巨大な物体が見えた。あの巨大な建設機械のクレーンとレバー、そして停止したエンジンだった。

彼は階段の一番上へとたどり着いた。急かされながら手すりのついた狭い足場を渡ると突然、大きな叫び声とともにあの廃墟の円形劇場が再び目の前に広がった。「世界の主人は我々とともにある! 世界の主人! 世界の主人!」その叫びは人々の顔が作る湖を波のように渡っていき、廃墟の遠くの断崖へぶつかるとまたさまざまな叫びとなって戻ってきた。「世界の主人は我々の味方だ!」

もはや自分が人々に取り囲まれていないことにグラハムは気づいた。彼は白い金属でできた小さな仮設ステージの上に立っていて、それは評議会議事堂の巨大な建物の周囲に張り巡らされた頼りなさげに見える足場の一部だった。広大な廃墟の全体で叫び声をあげる人々が揺れ動き、渦巻いていて、あちらこちらで革命組織の黒い横断幕がはためいてはこの混乱の中にわずかばかりの組織だった中核を作り上げていた。彼を救い出した一団は、壁と足場の急な階段をよじ登ってアトラスの大広間に開いた穴までたどり着いたのだ。今、そこには頑健な群衆がしがみつき、さらに柱や突起物にしがみついた小柄で活力にあふれた黒い人影が、集まった群衆を煽り立てようと力強く声をあげていた。彼の背後のひときわ高い足場では何人かの人間が折りたたまれた巨大な黒い旗をはためかせながら何とか上に登ろうと奮闘している。足元の壁に大きく口を開いた裂け目の向こうを見下ろすと、アトラスの大広間に詰め込まれるようにして、こちらを注視する群衆が見えた。遠く南に見える飛行ステージは明るくくっきりとしていて、いつになく澄んだ空気の中、ずっと近くにあるように見えた。中央のステージから一機の単葉機が空を裂くように飛び立ち、それはまるでやって来る飛行機隊を出迎えるかのようだった。

「オストログはどうなったのです?」グラハムは尋ねたが、彼がまだ言い終わらないうちに全ての目が彼から評議会議事堂の建物のてっぺんに向けられた。皆の注意が向けられた方向に彼も目を向けた。しばらくの間、空を背景にはっきりとした影を作る、ぎざぎざとした壁のふちの他には何も見えなかった。それから影の中に一つの部屋の内部が見えるのに気づき、その緑と白の装飾がかつて自分が捕われていた部屋のものと同じであることに気づいて彼ははっとした。そしてこの内部をさらす部屋をすばやく横切り、廃墟の断崖のぎりぎりのところまで小さな白い服の人影が、さらに小さく見える黒と黄の服の二人の人影を従えてやって来るのが見えた。自分の横にいた男が「オストログだ」と叫ぶのを聞いて、彼は質問をしようとそちらを向いた。しかし質問はできなかった。彼と一緒にいた人々がまた違う驚きの叫びをあげ、急いで細い指で何かを指さしたのだ。見ると、なんということだろうか! 彼が最後にその方向を見た時に飛行ステージから飛び立った単葉機が、こちらに向かって疾走してきたのだ。その高速の安定した飛行はいまだに彼の注意を捉えるだけの新鮮さを持っていた。

近づくに従って機影はたちまち大きくなり、ついに廃墟の遠くの端をかすめ、下にいる密集した群衆の視界にも入った。急降下してその場を横断し、また上昇して頭上を通過した後、評議会議事堂の巨大な建物を飛び越えるためにさらに上昇を続けていく。薄い半透明のその姿の中で孤独な飛行士が骨組みの間から地上を見つめていた。機影は廃墟の向こうへ消えた。

グラハムは注意をオストログへと移した。彼は手を振って合図を送っていて、従者たちはすぐそばの壁を忙しく打ち崩していた。次の瞬間、あの単葉機が再び視界に現れた。遠く離れた小さな影は大きな弧を描きながら近づいてきて、だんだんと速度を落としていった。

その時、突然、黄色い服の男が叫び声をあげた。「やつら何をやっているんだ? 皆、何をやっている? なんでオストログはあそこにほっぽりだされている? なぜあいつを捕まえない? やつらはあいつを拾い上げるつもりだ――あの単葉機はあいつを拾い上げるつもりだ! ああ!」

廃墟からあがった驚きの声が叫びとなって響いた。緑色の武器のたてる耳障りな音が長い距離を渡ってグラハムまで届き、下を見ると、黒と黄の制服を着た一団が、オストログの立っている突き出た足場の下にある吹きさらしの空中廊下の一つに沿って走っているのが見えた。彼らは走りながら視界の外にいる者たちに向かって発砲していて、それからすぐに追跡する薄青色の人影の一団が現れた。こうした戦う人々の小さな姿は実に奇妙な印象を与えた。走っていく彼らはまるで小さなおもちゃの兵隊のように見えた。切り裂かれた建物でくり広げられるこの奇妙な光景は、家具や通路での戦いに非現実的な雰囲気を与えていた。彼からはおそらく二百ヤードほど、眼下の廃墟にいる人々からはその頭上ちょうど五十ヤードほどの距離だった。黒と黄の男たちは口を開いたアーチ道へと駆け込むと振り向いて一斉射撃を始めた。大またでへりの近くを進んできた青い服の追手の一人が、両手を振り上げて横によろめき、グラハムにはへりに数秒間、身を乗り出したように思われたのだが、それから真っ逆さまに落ちていった。その男が突き出た建材の端に当たってはじき飛ばされ、頭を下に、頭を下にと落ちて、建設機械の赤いアームの背後に消えるのをグラハムは目にした。

その時、グラハムと太陽の間に何か影が走った。見上げても空は晴れていて、彼はあの小さな単葉機が通り過ぎたのだとわかった。オストログは消えていた。あの黄色い服の男が彼の前に乗り出し、熱のこもった様子で汗をかきながら指をさして、騒ぎ立てていた。

「やつら、着陸しようとしている!」黄色い服の男が叫んだ。「やつら、着陸しようとしている。皆にやつを撃てと指示しろ。彼らにやつを撃てと指示するんだ!」

グラハムには理解できなかった。この謎めいた命令を繰り返す大声を彼は聞いていた。

単葉機の機首が廃墟の端の上に滑るように近づき、震えながら止まったのに突然、彼は気づいた。オストログがそれに乗って逃げ出せるように着陸したのだとグラハムは一瞬のうちに悟った。目の前の広い空間に青いもやが立ち昇るのが見え、下にいる人々が今度は突き出た梁に向かって上へ撃っているのだとわかった。

横にいた男がしわがれた応援の声をあげた。見ると青い反抗者たちは、少し前まであの黒と黄の男たちと争いあっていたアーチ道を奪取し、吹きさらしの通路に沿って絶え間ない流れとなって走っていた。

不意に単葉機が評議会議事堂の端を滑るように乗り越え、急降下するツバメのように落ちていった。斜め四十五度ほどの傾きで機体は落下し、それはグラハムにはあまりに急であるように見えた。おそらくは下にいる人々のほとんどにもそう見えたことだろう。とても再び上昇できるとは思えなかった。

落ちていく機体は彼のすぐ近くを通り過ぎ、彼には座席の案内板にしがみつくオストログや、そのなびく灰色の髪が見えるほどだった。機体を上昇させようとレバーを必死に引く顔面蒼白の飛行士も見えた。下にいる無数の人々があげる形にならない恐怖の悲鳴が聞こえた。

グラハムは目の前の手すりに飛びついてそれを握り締めた。一秒がひどく長く思えた。単葉機の翼の下側が人々をかすめて通り過ぎ、人々はその下でわめき声や悲鳴をあげ、互いに折り重なるように倒れた。

そして上昇したのだ。

しばらくの間は反対側の断崖を飛び越せないように見え、そしてさらにその向こうで回転している風車を飛び越せないように見えた。

しかし、見よ! 機体はそれらを飛び越えて舞い上がり、まだ横に傾いてはいたが、上へ上へと風の吹きすさぶ空へと昇っていった。

一瞬の緊張は、群れ動く人々がオストログが逃げ出したことに気づくと同時に、激しい怒りへと道をゆずった。遅ればせながら人々は発砲を再開し、その耳障りな音が折り重なって轟音へと変わり、あたり一帯がその武器の薄い煙で青く見通しが悪くなり、空気に刺激臭が立ち込めるまでそれは続いた。

遅かった! 飛行機械はだんだんと小さくなっていきながら、弧を描いて、前にそれが飛び上がった飛行ステージへと優雅に滑空降下していった。

しばらくの間、廃墟からは混乱したざわめきがあがっていたが、それから皆の注意が足場の高いところに立つグラハムへと戻った。人々の顔が自分の方へ向けられるのが見え、救助された自分への叫び声が聞こえた。道にいる人々の喉からあの反乱の歌が流れ出し、まるでそよ風のように、それはゆらめく人の海を広がっていった。

彼の周囲の小さな一団は彼が逃げ出せたことを喜ぶ歓喜の言葉を叫んでいた。あの黄色い服の男は彼のすぐそばにいて、顔はこわばっていたがその目は輝いていた。歌はますます高らかに大きな声で歌われていた。だん、だん、だん、だん、と。

こうした状況が意味することの全てに彼はゆっくりと気づいていき、自分の立場が急速に変わったことを知った。かつて叫び声をあげる群衆と向き合う時には常に横に立っていたオストログははるか彼方だった――敵対者となったのだ。もはや彼に指図する者は誰もいなかった。彼の周囲にいる人間、この群衆のリーダーやまとめ役でさえ、彼が何をするかを見守り、彼が行動することを期待し、彼の命令を待っていた。彼は確かに王となったのだ。操り人形としての統治はついに終わった。

彼は自分に期待されている役割を果たそうと強く思った。神経と筋肉はわななき、頭が少し混乱しているようだったが、彼は恐怖も怒りも感じてはいなかった。踏みつけられていた手はずきずきとうずき、熱を持っていた。自分の振る舞い方に彼は少し神経質になっていた。自分が恐れていないことはわかっていたが、恐れているように見えはしないかと心配だったのだ。かつての生活では技巧を競う遊びに彼はひどく興奮してしまうことがよくあった。ただちに行動を起こすことを彼は望んでいたが、自分を巡るこの争いのとてつもない複雑さについてあまり詳しく考えすぎてはならないこともわかっていた。考え過ぎればそのあまりの複雑さに麻痺して動けなくなってしまうだろう。

遠く向こうに見える青い四角形、飛行ステージはオストログを意味していた。実に明析で、自信にあふれ、決断力のあるオストログに対抗して、優柔不断で決断力に欠ける彼が、この世界の未来全てを賭けて戦うのだ。


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