社会契約論――政治的権利の諸原則 第三篇, ジャン・ジャック・ルソー

第三章 政府の分類


前章において、我々は、何故に政府を構成する人間の数によりて政府の種類が分れるかを説明した。本章ではこの分類が如何にして行われるかを説明すればよい。

主権者は、先ず第一に、政治を国民全体あるいは国民の大部分に委任し、ただの個人としての市民よりも行政官の任務を帯びた市民の数を多くすることができる。かくの如き政体は民主政治 démocratie と呼ばれる。

あるいはまた、主権者は、政治を少数者の手中に制限し、行政官よりもただの市民の数をずっと多くすることもできる。こういう政体は貴族政治 aristocratie と名づけられる。

最後に、主権者は、全政治を一人の行政官の手に集中し、他の市民はことごとくその権力をこの一人の行政官から受けるようにすることもできる。この第三の政体は最も普通の政体であって君主政治 monarchie あるいは王政 gouvernement royal と称せられる。

これ等三つの政体、少なくも最初の二つには種々程度の相違があり、しかもかなり広い区域に亘っていることを注意しなければならぬ。何となれば、民主政治は人民の全部を包含しても民主政治であるし、人民の半分を包含しても、やはり民主政治である。また貴族政治は、人民の半分をもってもつくることができるし、極めて少数者でもつくることができる。王政にでさえも多少の区別が設けられる。スパルタには常に憲法によりて二人の王があった。ローマ帝国には同時に八人の皇帝があったが、それでいてローマ帝国が分裂しているとは言えなかった。かくの如く、各政体には次の政体と混交する点があるのである。それ故に、この僅か三つの名称の下に、実際には国家が有する市民の数と同じ数の政体があり得るということがわかるのである。

そればかりではない。同じ政府も、ある点では別々の部分に細分することができ、甲の部分には甲の行政が布かれ、乙の部分には乙の行政が布かれる。そこでこの三つの政体の結合によりて、数多の混合政体が生れ、この混合政体の各々は、また単一政体の種類によりて倍加するのである。

如何なる政体が最善の政体であるかについては、いつの時代にも随分論じられたがある場合にはある政体が最善であるが、他の場合にはその同じ政体が最悪のものになるということは誰も考えたものがない。

もし、様々な国家において、最高行政官の数が市民の数と逆比例すべきであるとすれば、一般に民主政治は小国に適し、貴族政治は中位の国に適し、君主政治は大国に適するということになる。この規則は、前述の原則から直ちに演繹することができる。けれども、それには数え切れない程無数の事情があって、そのために例外が生ずるのである。