宇宙戦争 第一部 火星人の到来, ハーバート・ジョージ・ウェルズ

サリーで起きていた出来事


ハリフォード近くの開けた牧草地の生け垣の下で座った牧師補が私に激しく語りかけている間、またウェストミンスターブリッジの向こうに避難する人々の流れを私の弟が見つめている間に、火星人たちは攻撃を再開していた。複数の互いに矛盾する報告から判断する限りでは、夜の九時までは火星人の大部分はホーセルの穴に留まって忙しく準備をおこなっていた。大量の緑色の煙を排出する何らかの作業に追われていたのだ。

しかし八時ごろにはそのうちの三体が外に出てきてゆっくりと慎重に前進を始めていた。それは間違いない。そいつらはバイフリートとパーフォードを通り抜けてリプリーとウェーブリッジへ向かう進路を取り、夕日を背に、待ち受ける砲兵隊の前に姿を現したのだった。火星人たちは固まらずに列を作って前進していて、仲間からそれぞれ一マイル半ほどの距離をおいていた。サイレンに似た遠吠えで互いにコミュニケーションを取り合い、その声は低くなったり高くなったりと音程を変えた。

アッパー・ハリフォードで私たちが耳にしたのはリプリーとセント・ジョージズ・ヒルでのこの遠吠えと砲撃だった。リプリーの砲撃手たちは不慣れな志願砲兵で、これまでこうした状況に置かれたことが無かった。彼らは雑で性急な効果の薄い一斉射撃をおこなってから騎馬と徒歩で無人の村を抜けて逃げ出した。その間、火星人はあの熱線を使うこと無く落ち着いた様子で大砲を踏み壊し、慎重に砲兵たちの間に踏み出して彼らの前を通り過ぎていった。そしてペインズヒル・パークの砲列に思いがけず出くわし、それを破壊したのだった。

しかしセント・ジョージズ・ヒルにいた者たちはもっと統率が取れていて気概があった。松林の中に隠れ、火星人たちが近くに来るまでまったく疑われなかったようだ。まるでパレードの時のように慎重に大砲を配置し、千ヤードほどの距離で砲撃をおこなった。

目標の周囲のいたるところで砲弾が炸裂し、敵は数歩進んだかと思うと足をもつれさせて倒れ込んだ。全員が一斉に歓声を上げ、狂ったように勢いよく大砲に次弾が装填される。倒された火星人が長い遠吠えをしたかと思うとすぐに第二の輝く巨人がそれに応えて南の林から姿を現した。トライポッドの足の一本は大砲の一撃によって破壊されているように見えた。二度目の全面的な一斉射撃は地面に横たわる火星人を外れ、同時に仲間の両方が熱線を砲兵隊に向かって放った。弾薬が吹き飛び、大砲の周囲の松林は一瞬にして火の海へと変わった。逃げ出せたのは既に走り出して丘の頂上を越えていた数人だけだった。

第二の火星人が最初の者を守ったのだ。

この出来事の後、三体の火星人は停まったまま寄り集まって話し合っているように見えた。監視していた偵察兵はやつらがそこから半時の間、完全に停止していたと報告している。倒された火星人が機械の頭部からのろのろと這い出してくる。小さな茶色のその姿は遠くから見ると奇妙なアブラムシのようで、そいつが自分の乗った機体を修理していることは明らかだった。九時ごろになって作業が終わると機体の頭部が再び木々の上に現れた。

この三体の歩哨に、それぞれ太く黒い筒を手にした別の四体の火星人たちが合流したのは九時を少し過ぎた頃のことだった。同じ筒が三体にも手渡された後、七体はセント・ジョージズ・ヒル、ウェーブリッジ、リプリーの南西のセンドの村に沿って弧を描くように等間隔に散らばった。

火星人の隊列が進む。

やつらが動き出すとすぐにその目の前の丘から一ダースほどの信号弾が撃ち出され、ディットンやイーシャーのあたりで待ち構える砲兵隊に警告を与えた。それと時を同じくして、あの筒で同じ様に武装した四体の戦闘マシンが川を越え、西の空を背にしたそのうちの二体の黒い影が私と牧師補の視界へと飛び込んできた。私たちはハリフォードを抜けて北へ伸びる道を疲れと苦痛の中、急いでいるところだった。私たちが見守る中、身長の高さ三分の一ほどまで達した平原を覆う乳白色の霧の中をやつらは足取り軽く進んでいた。

この光景を目にすると牧師補は喉の奥で弱々しく悲鳴を上げて走り出した。しかし火星人から走って逃げるのは得策でないことを知っていたので私は露に濡れたイラクサとイバラの中をかき分けて道路脇の幅の広い溝へと進む先を変えた。牧師補も振り向いて私が何をしているのかを見ると戻ってきて私についてきた。

二体の火星人が立ち止まる。私たちに近い方は立ったままサンベリーの方を向いていて、ぼんやりとした灰色の姿の遠い方は宵の明星の方向、反対のステーンズの方を向いていた。

ときおり起きていた火星人の遠吠えは止んでいた。やつらは自分たちの円筒の周囲に巨大な三日月を描くような配置で立ち、あたりは静まり返っていた。それは先端から先端までが十二マイルに及ぶ三日月だった。火薬の発明以来、これほど静まり返った戦闘開始の瞬間は一度もなかったことだろう。リプリーのあたりにいた偵察兵と私たちはまったく同じものを見ていたはずだ――火星人たちは闇夜の唯一の支配者であるかのように見え、その姿は細い月や星々、日の名残り、セント・ジョージズ・ヒルやペインズヒルの林の赤い炎の光にきらめいていた。

しかしこの三日月が見えるあらゆる場所――ステーンズ、ハウンズロー、ディットン、イーシャー、オッカム、テムズ川南岸の丘や林の影、北側に広がる開けた牧草地、充分な目隠しとなる木々の茂みや村屋敷が集まる場所――にはどこであれ大砲が待ち受けていた。一発の信号弾が打ち上げられて闇夜に火花を降り注ぎながら消えると、それを見た全ての砲兵隊が臨戦態勢へ入った。火星人たちは射線上へ前進するほかなく、そうなれば身じろぎもしない男たちの黒い影と日沈直後の暗闇で輝く大砲はすぐさま戦いの豪雷を打ち鳴らすことだろう。

私自身の意識の一番上にあったものでもあるのだが、多くの思慮ある人々の意識の一番上にあったのは次のような疑問だった――やつらはこちらのことをどれほど理解しているのだろうか。数百万に及ぶ私たちが組織され、統率され、協働して活動していることをやつらは理解しているのだろうか? それともやつらにとっては私たちのおこなう一斉射撃、砲弾による熾烈な一撃や、やつらの野営地に対するゆっくりとした包囲は巣を壊されたミツバチが一斉に怒り狂って襲いかかっているのと変わらないのだろうか? やつらは私たちを絶滅させる気なのだろうか(その当時はやつらがどのような食料を必要としているのか誰も知らなかった)? あの巨大な歩哨の姿を見ている間、こうした多くの疑問が私の頭の中でうずまいていた。同時に頭の片隅ではロンドン方面の巨大な未知の隠された軍隊について考えていた。彼らは落とし穴を用意しているのだろうか? ハウンズローの火薬工場が罠として準備されているのだろうか? ロンドン市民には家々が立ち並ぶ自分たちの壮大な土地を焼け野原となったあの広大なモスクワへと変える覚悟と勇気があるのだろうか?

うずくまって生け垣の間から覗く私たちにとって果てしなく続くかに思われた時間が過ぎた後、遠くで砲撃のような音が聞こえた。近くでもう一度、さらに一度。次の瞬間、私たちの横にいた火星人が手にした筒を高く掲げて大砲の方向に撃ち、その重い発射音が大地を震わせた。ステーンズを向いていたもう一体がそれに応える。閃光も煙も無く、ただものすごい爆音だけが聞こえた。

この数分のうちに次々に起きた砲撃に興奮した私は身の安全も忘れてやけどした手を生け垣の上に伸ばしてサンベリーの方を見つめた。私がそうしている間にも二度目の発射が続き、巨大な飛翔体が頭上をハウンズローの方向へ走った。少なくとも煙か炎、あるいはそれに類した飛翔体がもたらす何らかの痕跡を目にできるだろうと私は期待した。しかし目に映るのは頭上に広がる藍色の空とそこに光るひとつの星、そしてその下に低く広がる白い霧だけだった。衝撃も、それに応じた爆発も無かった。静寂が戻って来る。時間が三倍にも伸びたかのようだった。

「何が起きているんです?」牧師補が横に立って尋ねた。

「見当もつきません!」私は答えた。

一匹のコウモリが羽ばたき、消えた。遠くでは叫び声が騒々しく響き始め、やがて止む。私が再び火星人に目をやるとそいつは川岸に沿ってすばやい転がるような動きで東に進んでいるところだった。

どこかに隠れた砲兵隊の砲火がそいつに襲いかかることを私はずっと期待したが夜の静寂が破られることはなかった。遠ざかるに従って火星人の姿は小さくなっていき、霧と深まる夜の闇が次第にその姿を飲み込んでいった。私たちは同じ衝動に駆られて高い方へ高い方へと登っていた。サンベリーの方向は暗く見えた。まるで円錐状の丘が突然そこに現れて、遠く広がる土地を私たちの視界から覆い隠したかのようだった。さらに遠くテムズ川を越えたウォルトンの向こうに同じ様な隆起がもうひとつ見えた。目をこらすと、こうした丘に似た形状はだんだん低くなりながら広がっているようだった。

不意に思いついて北の方に目をやるとそこに第三のぼんやりとした黒い小丘が隆起しているのが見えた。

突然、あらゆるものが静止したかのようだった。遠く南東の方向、静寂の中で互いに呼びかけ合う火星人たちの声が聞こえる。そして再びやつらの銃が放った遠くの鈍い音で空気が震えた。しかし地球側の砲兵隊からの反撃は無かった。

その時にはそれらが何なのか理解できなかったが、後になって私はこのたそがれ時に隆起した不吉な小丘の正体を知った。先に説明した巨大な三日月の形に立ったそれぞれの火星人は手にした大砲状の筒で巨大な弾筒を放ったのだ。その標的は丘や雑木林、家屋の群れ、その他、目の前にあって射程に入るあらゆるものに及んだ。あるものは一度だけ、またあるものは二度、射撃をおこなった――私たちから見えたやつとは異なり、リプリーにいた一体はその時に五度近く射撃をおこなったそうだ。この弾筒は地面に衝突すると――爆発はせずに――莫大な量の濃く黒いガスを猛り狂ったように吐き出し、ガスは渦巻きながら上へと昇って巨大な黒々とした積乱雲を作り、それから周囲の土地へゆっくりと降り注いで広がって気体の丘となったのだ。そしてそのガスに触れたり、その刺激臭のある細かな粒子を吸い込んだ者は死に至るのだった。

このガスは重かった。濃い煙よりも重く、そのために最初の激しい噴出と衝撃が終わると空気の中を沈下し、気体というよりむしろ液体かのように地面に降り注ぎ、気体の丘から広がって谷や側溝、水路へと流れ込んでいった。火山の亀裂から湧き出す炭酸ガスはそのように振る舞うと聞いたことがあるが、ちょうどそんな具合だ。このガスと水が出会った場所ではある種の化学反応が起こり、水面はすぐさま粉状の浮きかすで覆われた。それがゆっくりと沈んでいくとその後にまた浮きかすができるのだった。この浮きかすは水にまったく溶けない奇妙な物質で、気体が瞬時に及ぼす影響のひとつだったが濾し取ればその水を飲んでも何ら害はなかった。このガスは本物の気体が拡散するようには広がらなかった。土手で滞留し、坂道では緩慢に流れ、風が吹けば不承不承それに従った。そして極めてゆっくりと霧や空気中の水分と結びつき、埃となって地面へと降り積もっていったのだ。スペクトルの青色領域に四本のまとまった線を描く未知の元素が関係していることを除けば、この物質の性質についてはいまだまったくわかっていない。

このガスをばらまいた激しい隆起が消えると黒い煙は地表近くにへばりつき、まだ完全に沈下が終わる前でさえ五十フィートの高さがある屋根や高い建物の上階、大木の上であればガスの毒から完全に逃れることができるようになった。現にストリート・コブハムやディットンではその夜のうちにそれが証明された。

前者の場所に逃げたある男は、ガスが渦巻き流れる様子が実に奇妙だったこと、教会の尖塔から見下ろした時に村の家々がガスの黒い闇に幽霊のように浮かび上がっていた様子を実に詳細に証言している。一日半の間、疲れ、飢え、日の光に焼かれながら彼はそこに留まっていた。青空の下、広がる丘陵を背景にベルベットのような黒い気体が広がって赤い屋根屋根、緑の木々を飲み込み、時間が経つと黒いベールをまとった茂みと門扉、家畜小屋と納屋、そして壁、それらが陽の光の中、あちらこちらに浮かび上がった。

しかしそれは黒いガスが自然に地面に降り積もるままにされていたストリート・コブハムだけでのことだった。通常、火星人は目的が達せられるとガスの中を歩き回って蒸気のジェットを吹きかけ、空気を再び浄化した。

私たちのそばにあったガスの小丘についてもやつらは同じことをおこない、戻って入り込んだアッパー・ハリフォードの放棄された家の窓から、星の光の下、私たちはそれを見守った。そこからはリッチモンド・ヒルやキングストン・ヒルのサーチライトがあちらこちらへと動き回る様子も見えた。十一時を回ったころ、窓が激しく揺れて音を立て、配置された大量の攻囲砲の音が聞こえた。砲撃の音は途切れ途切れに四半刻ほど続いた。ハンプトンやディットンの姿の見えない火星人に対していちかばちかの一撃を加えようとする砲撃だった。それから電灯の青白い光線が消えて、輝く赤い発光へ変わった。

そして四番目の円筒が落ちてきたのだ――鮮やかな緑色の流れ星だった――後で知ったところによると落下地点はブッシー・パークだったらしい。リッチモンドとキングストンの丘陵にある前線での砲撃が始まる前には不規則な連続砲撃が南西の遠くの方で起きた。私が考えるところでは、あの黒いガスが砲兵たちを制圧する直前に偶発的な砲撃がおこなわれたのだろうと思う。

実際のところ状況は人間が蜂の巣を煙で燻すのとなんら変わらず、火星人たちはこの奇妙な窒息性のガスをロンドン方向に広がる土地に散布していった。三日月の先端はゆっくりと別れて動き、最後にはハンウェルからクームとモールデンまで伸びる直線を形作った。やつらの破壊砲は一晩中、前進を続けた。セント・ジョージズ・ヒルで火星人のひとりが打ち倒された後は、やつらは砲兵隊にほんのわずかな隙も見せなかった。それがどこであれやつらを狙う大砲が配置されている可能性があれば新しい黒いガスの弾筒が放たれ、大砲があからさまに見える場所には熱線の集中砲火が浴びせられた。

深夜になるとリッチモンド・パークの斜面に沿って燃え上がる木々とキングストン・ヒルの炎がその光を黒い煙の網目に投げかけた。煙の網目はテムズ川の谷全体を覆い隠しながら、目の届く限りの遠くまで伸びていた。そしてその中を二体の火星人がゆっくりと歩いて進みながら、あちらこちらへと蒸気のジェットを吹きかけているのだった。

その夜、やつらは熱線をあまり撃たなかった。それに必要な物質の供給に限りがあったのか、あまり土地を破壊せずに現れた敵を倒して服従させるだけにしたいと考えたかのどちらかだろう。この後者の狙いに関して言えばやつらは間違いなくそれに成功していた。やつらの動きに対して組織的な抵抗が起きたのは日曜の夜が最後だった。それ以降はやつらに立ち向かおうという人間は皆無だったのだ。なぜならそうした企てはあまりに望みの薄いものだったからだ。テムズ川の上流で速射をおこなっていた水雷艇や駆逐艦の乗組員さえその場に留まることを拒んで命令に反して再び川を下っていった。その夜以降で人々が危険を押しておこなった攻撃作戦と言えば地雷と落とし穴を仕掛けることだったが、それさえもそのエネルギーとなったのは狂乱と興奮だった。

イーシャーへと向かい、たそがれ時にひどく緊張して敵を待ち受けていたあの砲兵隊の運命については想像するしかない。生存者はひとりもいなかったのだ。ありきたりな情景しか思い描くことはできない。油断なく警戒する将校、臨戦態勢の砲兵、近くに積まれた砲弾、砲車を引く馬車と荷車、許されたぎりぎりまで近づいて立つ民間の見物人の群れ、夕べの静けさ、やけどや傷を負ったウェーブリッジからの兵を収容した救急馬車と救護テント、そして次の瞬間に火星人の射撃によるにぶい反響が響き、不格好な飛翔体が木々と家々の上に渦を起こしながら飛んで近くの草原に激突する。

突然逸れる注意、すばやく拡散する黒い渦と隆起が急速に迫って頭上にそびえ、たそがれ時を漆黒の暗闇へと変える。不可思議で恐るべき拮抗的作用を持つガスが犠牲者の上を流れていく。近くにいる人間と馬は視界を奪われて走り周り、金切り声を上げ、頭から倒れ、混乱して叫ぶ。大砲は即座に放棄され、地面では人々が窒息して悶える。あのすばやく広がっていく不透明な煙の円錐だ。そして夜が来て全てが息絶える――犠牲者を覆い隠して静かに漂う大量の濃いガスの他には何もない。

夜明け前には黒いガスはリッチモンドの通りへと流れ込み、崩壊しつつあった政府組織は最後の力を振り絞ってロンドンに住む人々に急いで避難するよう呼びかけていた。


©2019 H. Tsubota. クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際