宇宙戦争 第一部 火星人の到来, ハーバート・ジョージ・ウェルズ

ホースルの共有地で


私が目にしたのは円筒が横たわる巨大な穴を囲む二十人ほどの小さな人の群れだった。地面に埋まった巨大な物体の外観についてはすでに説明したとおりだ。周囲の芝土と砂利はあたかも突然の爆発によって焼け焦げたかのようだった。衝撃によって発火が引き起こされたことは間違いなかった。ヘンダーソンとオグルビーはいなかった。今のところできることは何も無いと考えて二人はヘンダーソンの家に朝食をとりにいったのだろうと私は考えた。

穴の縁には四、五人の少年が座り込んでいて、足をぶらぶらとさせながら――私が止めさせるまで――あの巨大な物体に石を投げていた。私が注意した後、彼らは見物人の集団に「触れて」回る遊びを始めた。

中には自転車に乗っている者も何人かいた。それからときどき私が仕事を頼んでいる植木屋、赤ん坊を連れた少女、肉屋のグレッグと彼の小さな息子、それに普段からあたりをうろついている暇人が二、三人と普段は鉄道駅の周りにたむろしているゴルフ・キャディーたちだ。彼らはほとんど会話をしていなかった。当時、イングランドの一般の人々の中でぼんやりとでも天文学的知識を持っている人間はごくわずかしかいなかった。彼らのほとんどは黙ったまま大きなテーブルに似た円筒の端面を見つめていた。それはまだオグルビーとヘンダーソンが立ち去った時と同じ状態だった。この生命とはほど遠い物体を見て、焼け焦げた死体の山という彼らの期待はしぼんでしまったのだろうと私は想像した。私がそこにいる間にも何人かが立ち去り、また新たな人々が来た。穴の中に這い降りた私は足の下でかすかな動きを感じたように思った。物体の上面は間違いなく回転するのを止めていた。

近づいてようやく私はこの物体の奇妙さをはっきりと理解した。実のところ最初に目にした時にはひっくり返った馬車や道に倒れた木の幹とさして変わらない興奮しか覚えなかった。しかし確かにこれはそれらとは違った。まるでさびた浮きのようだ。その物体の色の濃淡が普通の酸化によるものでないことに気がつくには相当な科学知識が必要だった。蓋部と円筒の間の裂け目に光る黄色がかった白色の金属は見慣れない色合いをしている。しかし、ほとんどの見物人にとって「地球外」という言葉はまったく意味不明なものだったことだろう。

円筒からはまだ煙がたっている。

その時には私自身にとってはこの物体が火星から来たものであることは明白になっていたが、その内部に何らかの生き物がいるというのはありそうもないと思った。ネジの回転はおそらく自動化されたものだろうと私は考えた。以前にオグルビーには反論されたが私はいまだに火星には人間がいると信じていた。この内部には書類が収められているのではないかと私は想像した。おそらく翻訳には多くの困難がともなうだろう。あるいはコインや模型といったものが見つかるかもしれない。しかし、いまだこうしたアイデアを確信するには至っていなかった。円筒が開いたところを見たくて仕方なかった。十一時ごろになっても何も起きるようには見えなかったので私はこうした考えに頭を膨らませながらメイベリーの我が家へ歩いて戻った。しかし普段の自分の理論的研究に取り組もうとしても仕事が手につかなかった。

午後になると共有地の様子はまったく違うものになっていた。夕刊紙の早版は大きな見出しでロンドン中を騒がせていた。

「火星から届いたメッセージ」

「ウォーキングの驚くべき事件」

といった具合だ。さらにオグルビーの天文学交流会への電報によって国内のあらゆる天文台が沸き立っていた。

ウォーキング駅の乗り場からの六、七台の一頭立て馬車が採砂場の脇の道に停まっている。チョブハムからの幌付きの二輪馬車や、もっとずっと立派な四輪馬車も停まっていた。他にもとてつもない数の自転車もあった。それに加えて、この暑さにも関わらずウォーキングやチャートシーから歩いてきたに違いない大勢の人々だ。あたりはものすごい人混みだった――中には派手なドレス姿の女性も一、二人いた。

実に暑かった。空には雲ひとつ無く、わずかな風も吹かず、散らばって生える松の木々がわずかに日陰を作るだけだ。燃えていたヒースの火はすでに消えていたがオターショウの方の平地は見渡す限り黒く焦げていてまだ煙がまっすぐに立ち昇っていた。チョブハム・ロードの目ざとい菓子売りは青りんごやジンジャービールを積んだ二輪の手押し車と一緒に自分の息子を送り込んでいた。

穴の縁へ行ってみると五、六人ほどの一団がそこに陣取っていた――ヘンダーソン、オグルビー、それから背の高い金髪の男だ。後で知ったところによるとステントという名の王立天文台の所長で、スコップとツルハシを巧みに使う作業員を何人か連れていた。ステントはよく通る甲高い声で指示を出しているところだった。彼はあの円筒の上に立っていて、円筒は明らかにさっきよりも冷えているようだった。彼の顔は真っ赤で汗が流れ出していた。何かが彼をいらだたせているようだ。

円筒の大部分は掘り出されていたが、それでも下の方の端はまだ埋まったままだった。穴の縁に集まって見つめる群衆の中に私を見つけるとオグルビーはすぐに降りてくるよう呼んで、この荘園の主であるヒルトン卿に会いに行ってくれないかと頼んできた。

彼によると増え続ける群衆、とりわけ少年たちが自分たちの採掘作業の深刻な障害になりつつあるというのだ。簡単な柵を設置して人々を遠ざけたいというのが彼らの望みだった。彼が語ったところによるとまだときどき物体内部からかすかな物音が聞こえていたが、手をかけられるところが無いために作業員は上面を開けることができないでいるらしい。物体の壁はかなり厚いように見え、私たちにかすかにしか聞こえない物音も内部ではかなりの騒がしさである可能性があった。

彼に頼まれて私は大喜びで手を貸すことにした。できあがる囲いの中に入れる特権的な観客のひとりになれるのだ。屋敷ではヒルトン卿に会うことはできなかったが、六時のウォータールー発の列車でロンドンから戻るはずだと告げられた。それが五時を十五分ほど過ぎた頃のことだ。私は家に帰ってお茶を飲むと彼を待ち受けるために駅まで歩いて行った。


©2019 H. Tsubota. クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示-非営利-継承 4.0 国際