宇宙戦争 第二部 火星人に支配された地球, ハーバート・ジョージ・ウェルズ

足の下で


第一部で私自身の冒険の話から大きく逸れて最後の二章にわたって弟の体験を語ったが、私と牧師補はあの黒い煙を避けて飛び込んだハリフォードの空き家に潜んでいた。そこから話を再開しよう。私たちは日曜の夜と翌日――つまりあのパニックの一日――の間、あの黒い煙によって外界から隔絶された日の差す小さな孤島に留まっていた。この鬱屈とした二日間、私たちは歯痒い思いで待ち続けることしかできなかった。

頭の中は妻の心配でいっぱいだった。彼女はレザーヘッドで怯えながら危険な中で、すでに私が死んだものと思って喪に服しているだろうと私は思った。私は部屋を歩き回り、どれほど彼女と自分が隔てられているか、私のいない間に彼女の身にどれほどのことが起きているかを思っては大声で泣き叫んだ。私の知る従兄弟はどんな緊急事態にも対処できるだけの勇敢さを持ち合わせてはいたが、危険にすばやく気がついてすぐさま行動に移せるタイプの男ではなかった。今必要なのは勇敢さではなく用心深さなのだ。火星人はロンドンに向かって移動していて彼女からは遠ざかっているはずだと信じることが唯一のなぐさめだった。こうした形のはっきりしない不安で絶えず神経は過敏になり痛めつけられていた。絶えず続く牧師補の不意のわめき声にわたしはひどく疲弊し、いらだちを募らせていった。手前勝手に絶望するその姿にはうんざりだった。何度かの無駄に終わった抗議の後、私は彼から離れた部屋に閉じこもった――そこが子供の勉強部屋であることはひと目見てわかった――地球儀や用紙、手習い帳が置かれていたのだ。彼が私の後を追ってきた時には家の上の方にある納戸に逃げ込み、うずく悲嘆を抱えてひとりになるためにそこに閉じこもった。

丸一日と次の日の午前中、私たちはなすすべもなくあの黒い煙に取り囲まれていた。日曜の夜には隣家に人の気配を感じた――窓に顔が映って動く光が見え、さらに後にはドアを閉める音が聞こえたのだ。しかしそれが誰なのかも、その後どうなったのかもわからない。次の日には少しもその姿を見ることはなかった。月曜の午前中、黒い煙はゆっくりと川の方向に流されて少しずつ私たちに忍び寄り、ついには私たちの隠れる家のすぐ外の道に沿って流れるまでになった。

正午ごろには一体の火星人がやって来て超高温の蒸気の噴流でそこら中のものをなぎ倒した。噴流は壁に当たって激しい音をたて、触れた窓全てを打ち壊し、牧師補の手にやけどを負わせて彼を居間に逃げ込ませた。ようやく私たちがびしょ濡れになった部屋を這い進んで外の様子を再度確認した時には土地の北側はまるで黒い雪嵐が通り過ぎた後のようになっていた。川の方に目をやった私たちは驚愕した。黒く焦げた牧草地に不可解な赤いものが絡みついているのが見えたのだ。

あの黒い煙の恐怖から逃れられたということの他には、しばらくの間、こうした変化が私たちの置かれた状況にどのように影響するのかわからずにいた。しかし時が経つと、自分たちがもはや包囲されておらず、今こそ逃げ出す時だということを私は理解した。逃げ道が開かれたことに気がつくやいないや、どう行動するかのアイデアが私の頭に戻ってきた。しかし牧師補は無気力で聞き分けがなかった。

「ここにいれば安全です」彼は繰り返した。「ここなら安全なんですよ」

私は彼を置いていくことに決めた――実際、そうできたらどれほど良かったことか! あの砲兵の教えを憶えていた私は食料と飲み物を探した。油と自分のやけどを手当するための布切れは見つけていたし、寝室のひとつでは帽子とフランネルシャツを手に入れていた。私がひとりで出ていくつもりであることがはっきりすると――私はしかたなくひとりで行こうとしていたのだが――彼は突然、気を変えてついてくることにした。昼下がりの間は静かに過ごし、五時ごろになって私たちは出発した。私は黒ずんだ街道に沿ってサンベリーに向かうことに決めた。

サンベリー、そして街道沿いには間隔を置いてねじ曲がった姿勢の死体が横たわっていた。人だけでなく馬やひっくり返った荷車や旅行かばんもあって、どれも黒い塵で厚く覆われていた。死体を覆う燃え殻は以前読んだことのあるポンペイの滅亡を思い出させた。私たちは無事にハンプトン・コートにたどり着いた。頭は奇妙な見慣れない状況でいっぱいだったがハンプトン・コートではあの窒息性の気流を逃れた緑の茂みを見つけて目を休めることができた。ブッシー・パークを通り抜けて私たちは進んだ。栗の木の下では鹿があちらこちらへと行き来していて、遠くでは何人かの男女がハンプトンに向かって道を急いでいた。そうやって私たちはトゥィックナムへとやって来た。そこで初めて私たちは人と出会ったのだった。

街道を越えた遠く、ハムやピーターシャムの向こうの林はまだ燃えていた。トゥィックナムは熱線の被害も黒い煙の被害も受けておらず、他の場所よりも人が多かったが私たちに目新しいことを教えてくれる者は誰もいなかった。ほとんどは私たち自身と同じような人々で、ましなところがあるとすれば落ち着いて自分たちの町を去ることができたということだけだ。その場所の家々の多くが怯えた住人、逃げ出すことさえできないほどの恐怖に襲われた人々によって占拠されていることは私に強い印象を与えた。ここまでの街道沿いでは慌ただしい避難の痕跡をたくさん見てきた。最も鮮明に思い出せるのは折り重なった三台の壊れた自転車で、それは後から来た荷馬車の車輪で道路に押しつぶされていた。リッチモンド・ブリッジを渡ったのは八時半ごろのことだった。もちろん私たちはさえぎるもののない橋を急いで渡ったが、流れの中を無数の赤いものが流れていくのに私は気がついた。中には数フィートに及ぶものもあった。それが何かわからず――詳しく見ている時間が無かったのだ――実際以上に恐ろしいものであるように私には思えた。またここでもサリーに近い場所にはかつては煙だった黒い粉塵と死体――駅へ続く道の近くにできた死体の山があった。しかしバーンズへ向かう道に入るまで火星人の姿は少しも見えなかった。

黒ずんだ光景の遠くに川へ向かう脇道を走っていく三人の集団が見えたが、それ以外には人の気配は無いように思えた。丘の上のリッチモンド街は激しく燃え上がっていた。リッチモンドの街の外にはあの黒い煙の痕跡は無かった。

その後、キューに近づいていく途中で突然、大勢の人間が走ってきて、火星人の戦闘マシンの上半身が建物の上にその巨大な姿を現したのだ。私たちからは百ヤードもない。危機的状況に私たちは呆然とした。火星人に見下ろされているのだ。まもなく自分たちは死ぬに違いない。恐怖のあまり逃げることさえ頭に浮かばなかったが、なんとか脇へ逸れて、ある庭の納屋へと隠れた。そこで牧師補はうずくまり、声を押し殺してすすり泣き、もはや動くまいとした。

しかしレザーヘッドへたどり着くという断固とした思いは私が休むことを許さず、たそがれ時になると私は思い切って再び外へと出た。植え込みを通り抜け、その土地に立つ大きな屋敷の脇の小道に沿って進み、やがてキューへ向かう道へ出た。納屋に置き去りにしてきたはずの牧師補は急いで私の後を追ってきていた。

この二回目の出発はこれまでで最も無謀なものだった。なにしろ火星人が私たちの周りにいることがはっきりしているのだ。牧師補が追いつくのと私たちがあの戦闘マシンに気がついたのはほとんど同時だった。それが前に目にしたものなのかは定かでない。遠くの方で牧草地をキュー・ロッジの方向へ横切っていく。その前を四つか五つの小さな人影が大急ぎで走って緑灰色の草原を横切っていく。火星人が彼らを追っていることはすぐにわかった。三歩で火星人は彼らに追いつき、彼らは火星人の足元から四方八方にばらけて逃げた。火星人は彼らを熱線で撃とうとはせず、ひとりずつつまみ上げていった。どうも自分の背から突き出た巨大な金属製の入れ物、ちょうど労働者が肩に担ぐバスケットのようなそれに投げ入れているようだ。

この時、敗北した人類を壊滅させる以外に火星人が何か他の目的を持っているらしいことに私は初めて気がついたのだった。私たちはしばらく呆然として立ち尽くし、それから向きを変えて背後の門を通り抜け、壁で囲われた庭へと逃げ込んだ。そして運良く溝を見つけ、というよりも運良く溝へ落ちて、互いにささやくことさえほとんどせずに星が昇るまでそこに腹ばいになっていた。

勇気をふりしぼって再び出発した時には十一時近くになっていたのではないかと思う。もはや道へ出る危険を冒すつもりはなく生け垣に沿って這い進み、植え込みを通り抜け、私たちを包囲したかに思える火星人がいないか牧師補は右側、私は左側へと暗闇の向こうに油断なく目を配った。まごつき、焦げて黒くなった土地をうろうろと動き回ることもあった。今では温度も下がって灰になっていたが、そこには無数の人間の死体が散乱していた。頭と胴体のあたりは恐ろしく燃えていたが足とブーツはほとんど無傷だ。馬の死体もあった。四つの引き裂かれた大砲の列と打ち壊された砲車の背後、五十フィートほどのところだ。

シーンの町は破壊を逃れたように見えたが、静まり返っていて人気がなかった。ここでは死体に出くわすことはなかったが夜の闇はあまりに深く、脇道を見通すことができなかった。シーンで私の道連れが突然、疲れと喉の渇きを訴えたので私たちは家のひとつを調べようと決めた。

窓から少々苦労して入った最初の家は小さな一棟二軒の住宅で、わずかなカビ臭いチーズの他には残された食料は何も見つからなかった。ただし飲み水はあった。さらに手斧を手に入れ、これは次の家に押し入るときには間違いなく役立つものだった。

次に私たちは道がモートレイクに向かって曲がるところまでやって来た。そこには壁で囲まれた庭付きの白い家が建っていて、この邸宅の食料庫で私たちは食料備蓄を見つけた――鍋に入った二斤のパンや生のステーキ、半切れのハムだ。なぜこれほど正確に品目を挙げられるかと言えば、実のところ、それからの二週間をこの倉庫に居座って過ごすことになったからだ。棚の下にはビン詰めのビールが置かれ、二袋のいんげん豆としなびたレタスがいくらかあった。この食料庫は台所の洗い場に向かって開いていて、そこには薪があった。また食器棚もあってその中で私たちは一ダース近いブルゴーニュ・ワイン、缶詰めのスープとサーモン、ビスケット二缶を見つけた。

暗闇の中――あえて灯りをつけようとは思わなかった――私たちは隣の台所に座り、パンとハムを食べ、同じビンからビールを飲んだ。いまだ怯えて落ち着きの無い牧師補は奇妙なことに今は先に進みたがっていたが、動けない時には食べて力を蓄えるべきだと私は彼に主張した。

「まだ夜中にもなっていない」私は言ったが、次の瞬間、目もくらむような鮮やかな緑の閃光が差した。台所のあらゆるものが跳ね上がり、緑と黒ではっきりと縁取られて再び消えた。続いて後にも先にも経験したことのない激しい振動が起きた。その直後、一瞬の間もおかずに私の背後でにぶい物音が起きた。ガラスの割れる音、崩れ落ちるレンガがたてる破壊と落下の音があたり一面から聞こえた。天井のしっくいが降り注ぎ、頭に当たって無数のかけらに砕ける。私は床に倒れ込みオーブンの取っ手にぶつかって気を失った。牧師補が語ったところによれば私はずいぶん長い間、意識を失っていたようだった。意識を取り戻した時にはあたりは再び暗闇に包まれていて、牧師補が私の顔にそっと水をかけていた。顔が濡れていたが後で額の切り傷から血が流れていることに気がついた。

しばらくの間、私は何が起きたのか思い出せなかった。それからゆっくりと記憶が戻ってきたのだ。額の打撲の跡がずきずきと痛んだ。

「気分はどうです?」牧師補がささやき声で尋ねた。

私はなんとか彼に返事をして体を起こした。

「動かないで」彼が言った。「食器棚から落ちた陶器のかけらが床一面に落ちています。動けば必ず物音がたつ。やつらが外にいると思うんです」

私たちは二人とも黙りこくって座っていた。互いの呼吸もほとんど聞こえないほどだった。全てが死んだように静止して見えたが何かが私たちのすぐ近くにいた。しっくいか砕けたレンガの壁ががたがたという音をたてて滑り落ちる。外のすぐそばで断続的な金属の機械音がした。

「あれです!」しばらくしてそれが再び鳴ったときに牧師補が言った。

「ええ」私は答えた。「しかし何なんでしょう?」

「火星人ですよ!」牧師補が言う。

私は再び耳をすませた。

「熱線ではなかったようだけれど」私は言った。しばらくの間、あの巨大な戦闘マシンの一体が家の上に倒れ込んだのではないかという考えに私は傾きかけた。シェパートン教会に倒れ込んだやつを見ていたからだ。

置かれた状況があまりに異常で不可解だったので夜が明けるまでの三、四時間、私たちは身じろぎもせずに過ごした。そして光が差してきたのだ。窓からではない。窓は暗いままだった。背後の壁の、梁と崩れたがれきの山の間にある三角形の隙間から光が差したのだ。その時、はじめて灰色に染まった台所の内部が見えた。

窓は大量の庭土によって内側に押し開かれ、土は私たちが座っているテーブルの上をあふれて足元にまで広がっていた。外では家に向かって土が高く盛り上がっている。窓枠の一番上からは地上に引きずり出された排水管が見えた。床には吹き飛ばされた金物が散らばり、台所の住居側の壁には亀裂が走っていて日光はそこから差していた。家の大部分が崩れ落ちていることは明らかだった。この破壊の様子と鮮やかな対照をなしていたのがこぎれいな食器棚だった。流行りの淡い緑色で塗られ、下には無数の銅やブリキ製の器があった。壁紙は青と白のタイルを模したもので、調理用レンジの上の壁では彩り鮮やかな飾りが揺れていた。

日が昇ってあたりがはっきりしてくると、見張りに立っているのであろうまだ白熱している円筒の上の火星人の姿が壁の亀裂から見えた。この光景を見て私たちはできるだけ慎重に台所の薄明かりから出て食器洗い場へと這っていった。

唐突に正しい解釈が私の頭に浮かんだ。

「五番目の円筒だ」私はささやいた。「火星からの五番目の飛翔体がこの家に当たってがれきの下に私たちを埋めたんだ!」

飛んできた円筒がこの家に当たったのだ。

しばらくの間、牧師補は黙っていたがやがてこうささやいた。

「神よ、私たちを哀れみください!」

彼がやがてめそめそとひとりごとを言い始めるのが聞こえた。

その音を除けば私たちは押し黙ったまま食器洗い場でふせていた。私は息さえも押し殺し、台所のドアのかすかな光から目を離さないようにしていた。見えるものはぼんやりとした長円形の牧師補の顔、そして彼のカラーとカフスだけだった。外では金属的なハンマーの音が始まり、次に激しい排気音、そして静かな中断をはさんで再びエンジンのもののような排気音が聞こえた。そのほとんどは不可解なもので、こうした物音は断続的に続いて時が過ぎるに従ってその数を増していくように思えた。そのうち一定間隔の重低音と振動が始まり、私たちの周囲のあらゆるものが揺れて食料庫の容器は音をたてて互いにぶつかりながらその位置を変えていった。やがて光が消えるとぼんやりと見えていた台所の戸口は完全な暗闇へと変わった。疲弊して意識を失うまで何時間もの間、私たちはそこにうずくまり、黙ったまま震えていた……。

ようやく意識を取り戻した時にはひどく腹が減っていた。意識を取り戻すまでに一日の大部分を浪費したに違いないと私は思った。急激で強烈な空腹は私に行動をうながした。食料を探しに行くと牧師補に告げて私は食料庫に向かって手探りで進んだ。彼は返事をしなかったが、食事を始めるとすぐに私のたてるかすかな物音に目を覚まし、彼が後を追って這ってくる音が聞こえた。


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