宝島 ロバート・ルイス・スティーヴンソン 第五部

コラクル舟での航海


目をさましたときにはすっかり日が昇っていて、僕は宝島の南西端のところを漂っているようだった。太陽はすでに高く昇っていたが、僕の方向からは大きな望遠鏡山に隠れていて、望遠鏡山はこちらの側からは、切り立った崖になり海まで至っていた。

ホールボーライン岬とミズンマスト山は僕のすぐそばで、山には木が生えておらず黒ずんでいて、岬は4、50フィートの断崖になり、その周辺には落石がごろごろしていた。僕は1/4マイルも海に出ていなかったので、最初におもいついたのは漕いで上陸しようということだった。

その考えはすぐに捨てなければならなかった。落石の間で、波がくだけとどろき、大きな音が次から次へと絶え間なくなりひびき、大きなしぶきが飛び散っていたので、僕ががんばって近寄っていったとしても、けわしい崖で死へとまっしぐらか、そびえたつ岩をよじ登ろうとしていたずらに体力を消耗してしまうかだったろう。

そればかりではなかった。というのも、岩の平らな所を一緒にはいまわったり、大きな声をあげて互いに海へと突き落としあっている、巨大なぬめぬめとした怪物を僕は目にしたのだ。まるで信じられないくらい大きなかたつむりみたいに柔らかそうなもので、40から60匹が一団で岩々の間にほえ声を響かせていた。

後になって、僕はそれがあしかというもので、全く無害だということを知った。しかしその姿をみる限りでは、岸へたどり着くのが難しく波が高かったこともあるが、上陸したらだめだと思うのには十分すぎるほどだった。そんな危険な目にあうくらいだったら、まだ海で餓死したほうがましというものだ。

そうしているあいだに、僕にはもっとよい方法があらわれたように思えた。ホールボーライン岬の北には、陸地が延々と続いていて、潮が引いたときには黄色い砂地が長く延びていた。そのさらに北には、もう一つ岬があり、それはウッズ岬である。地図にもその場所は記されていたが、高い緑の松の木が生い茂り、海の際まで迫っていた。

僕は、シルバーが潮の流れは宝島の西岸全体で北へ流れていると言ったことを思い出した。そして僕のいる場所からみて、その流れにのっていることは明らかだった。僕はホールボーライン岬を離れ、より上陸が易しそうなウッズ岬で上陸しようと力を残しておくことにした。

海には、大きななだらかなうねりがあった。一定のそよ風が南からふいていて、流れと同じ方向で、大波はくだけずに起こっては消えていった。

そうしていなかったら、僕はとっくに死んでいたに違いない。しかし実際には、僕の小さくて軽いボートはどれほど容易に、また安全に波を乗り越えていったのかは驚くべきほどだった。僕はずっとボートの底に身をふせて、舟べりから目だけを出して外をみていた。僕の目には、しばしば大きな青い波が僕の真上のすぐ近くまで持ち上がるのが見えた。ただそのコラクル舟は少し持ち上がるだけで、ばねじかけの上で踊るかのように、向こう側の谷へと一匹の鳥のように軽やかに降りていった。

少したつと、僕はとても大胆になって、漕ぐのをためしてみようと座る姿勢をとった。しかしこの重さ配分の少しの変化でも、コラクル舟の挙動には大きな影響を与えたのだろう。僕が動かないうちから、舟は、すぐに優雅に踊るような動きをやめて、波の斜面をまっすぐすべり下り、あまりに急激だったので僕はめまいをおこすほどだった。そしてへさきを深く次の波へとつっこみ、水しぶきをあげた。

僕はずぶぬれになって、恐れおののいた。そしてすぐに元通りの位置へと戻った。そうすると、コラクル舟は再び行く先を定めたようで、僕を荒波のなかで前のようにおだやかに導いてくれた。この舟が手出しを好まないことは明らかだった。そしてこの調子では、舟の行き先を操作することはできなく、僕には上陸するどんな希望があるというのだろうか?

僕は心の底から怖くなった。しかしとにかくまず落ち着いた。最初に細心の注意をはらって、少しずつコラクル舟から海帽で水をくみ出した。それから舟べりから覗いて、どうやってこの舟が大波の間をこれほど静かに切り抜けていくのかを研究しはじめた。

僕はどの波にも、岸や船の甲板から見えるような大きな、なだらかなつやつやとした山のかわりに、必ず陸の山脈のように、頂や平らな場所や谷がたくさんあることに気づいた。コラクル舟はなすがままにしておけば、くるくるまわりながら、その低い所をいわば縫うようにしていき、波のけわしい斜面や高く崩れ落ちる頂をさけるのだった。

「うん、いいぞ」僕は思った。「今の場所で横になって、バランスを崩さない方がいいんだ。でも、なだらかな場所だったら、櫂をときどき外にだしてひとかき、ふたかき、陸地の方へとすることはできるのも確かだな」思うがいなや実行した。両肘で体をささえ、できるかぎり機会をみて舟を岸の方へ向けるために弱くだが、ひとかきふたかきをした。

ひどく疲れるわりに遅々とした仕事だったが、目に見えて進んでいた。そしてウッズ岬に近づいたときには、その場所には上陸できないと分かっていたが、それでも数百ヤードは東の方にきていた。僕は実際に近づいていたのだ。僕の目には、涼しげな緑のこずえがそよ風に揺れているのが映り、次の岬では間違いなくたどりつけると確信した。

もうぎりぎりだった。というのも、僕はのどの渇きに苦しめられはじめていたからだ。太陽は上からさんさんと照りつけ、それは波に反射して何千倍にもなり、僕にふりかかった海水が乾き、塩をまさに僕のくちびるになすりつけたようで、僕ののどはやきつくようで頭はがんがんしたからだ。木々の風景はすぐ手の届くところにあり、僕はそこに行きたくて行きたくてたまらなかった。しかし潮流は僕をその場所からすぐに押し流し、そして次に海が開けているところにきたとき、僕はある風景をみて考えをすっかり変えた。

僕の正面で半マイルと離れていないところに、ヒスパニオーラ号が帆をあげて走っているのを見たのだ。僕はもちろん捕まるんだと覚悟をした。ただのどの渇きに耐えかねていたので、捕まるのがいいか悪いかも分からなかった。結論を出す前に、僕はすっかり驚いてしまって、ただ目をまるくして戸惑ってるだけだった。

ヒスパニオーラ号はメインの帆と2つの三角帆をあげて、その真っ白な美しい帆は雪か銀のように太陽に輝いていた。僕は最初に船を見たときに、その船の帆は全て張られていて、北西に針路をとっていた。そして僕は船上の男たちは島をまわって、停泊所まで戻って行こうとしているのだと思った。やがて船はだんだん西の方に針路を変えていった。つまりやつらが僕を見つけて、追いかけてこようとしていると僕は考えた。けれどもついに船は風上を向き、すっかり逆帆になって、帆を震わせながらしばらく立ち往生していた。

「まったくまぬけだなぁ」僕は口にだした。「やつらはまだ、ばかみたいに酔っ払ってるに違いないや」 そして僕は、スモレット船長ならどういう風にやつらの船長をつとめたかを想像した。

そうしているあいだも、スクーナー線はだんだん風下に向かい、タックをして再び帆が風をうけ、少しのあいだ走りだした。そして風上に向かってまた止まった。こんなことがたびたびくり返された。前後左右、東西南北に、ヒスパニオーラ号は急に動き出したかとおもえば、最初のように帆をはためかせながら止まった。僕にも、だれもかじをとっているものがいないことは明らかだった。もしそうなら、やつらはどこにいるんだろう? やつらがすっかり酔っ払っていようが、船を見捨ててようが、たぶん僕が船に乗り込んでいけば、船を船長のもとに返せるかもしれないと僕は考えたのだ。

流れは、コラクル舟をスクーナー船と同じ速さで南の方へと流していった。スクーナー船の走りといえば、乱暴で進んだり止まったりだった。そしてずいぶん長いこと動きがとれなくて、潮流から遅れることはなかったが、それより速いということもなかった。もし僕が立ち上がって漕ぎさえすれば、追いつけることは確かだった。でもそうするのはちょっとした冒険なので僕をふるいたたせ、そして船首の側には水だるがあると考えるのが勇気百人力だった。

僕は起き上がり、すぐに水しぶきの洗礼をあびた。ただ今回は目的を貫き、力をふりしぼり、細心の注意を払いながら、かじのとられていないヒスパニオーラ号の跡を追った。一度はひどく水をかぶったので、小鳥みたいにどきどきしながら、漕ぐのをやめて水をかいださなければならなかった。ただ、だんだん慣れてきて、波の合間でコラクル舟をあやつり、ときどきへさきをぶつけたり、顔に水の泡をあびたりもした。

僕は今やぐんぐんスクーナー船に追いついていた。舵が動くたびに、その真鍮が光るのがみてとれたが、甲板には誰の姿も見当たらなかった。僕には、やつらが船を見捨てたのだと思わざるえなかった。もしそうでないなら、やつらは下の船室でよっぱらっているわけだ。それならそれで、僕はたぶん昇降口に当て木でもして、船を僕が思うままにできるかもしれない。

しばらく、船は僕にとって困った状態になっていた。止まってしまったのだ。船はほとんど南にへさきを向けて、もちろんまだその針路は左右に揺れていた。船が風下に向かうたびに、その帆が部分的に風をうけ、しばらくするとまた風上へと向かうのだった。僕にとって困った状態だという訳は、そんな状況で立ち往生しているようにみえながら、帆は大砲のように大きな音をたて、甲板の上では滑車がころがり大きな音をさせ、僕から遠ざかって行ったのだった。それも潮流の速さばかりではなく、帆全体に風をうけて、そのためというのが大きかった。

しかし、今とうとう僕にチャンスがやってきた。風が数秒間静まってとても弱くなり、潮流はだんだんヒスパニオーラ号を回転させた。船の中央を中心にしてゆっくり回転し、ついに船尾が僕の方へとむいた。船室の窓はまだ開いており、テーブルの上のランプは昼になっても灯っていた。メインセイルは旗みたいにだらりと垂れていた。潮流がなければ、船は立ち往生だった。

その少しのあいだ、僕はまだ船に遅れていたが、今は力を倍増してもう一回追いつこうとした。

僕が船から100ヤードとないところまでたどり着いたとき、とつぜん再び風がふいた。船は左舷に風をうけ、ツバメのように身をかがめ水面をすべるように動き出した。

僕は最初は絶望しかけたが、それは喜びへとかわった。船は回転して、こちらに舷側をみせ、さらにまわって、僕との距離を半分、2/3、1/4とみるみる縮めたのだ。僕は船首の水切りの下で波が白くあわ立っているのを目にすることができた。コラクル舟の低い位置からは、その船はとてつもなく大きく見えた。

それから、とつぜん、僕は理解した。そもそも僕には考える時間も、行動して自分を救い出す時間もほとんどなかった。僕は一つのうねりの頂にいて、スクーナー船は次のうねりをこえて近づいてきた。船首斜檣が頭上にあり、僕は舟を水中へ蹴って飛び上がった。片手で帆の下げたをつかみ、片足は支索と金具のあいだにねじ込んだ。息をきらしてそこにぶら下がっていると、にぶい音がして、スクーナー船はコラクル舟に乗り上げ粉砕し、僕はもどるところもなくヒスパニオーラ号に取り残されたわけだった。


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