社会契約論――政治的権利の諸原則 第三篇, ジャン・ジャック・ルソー

第七章 混合政府


正確に言えば単純な政府なるものは存在しない。一人の元首にも多くの属官がなければならぬし、人民政府にも一人の首長がなければならぬ。かくの如く、行政権の分割には、常に多数から少数への段階がある。しこうして時には多数者が少数者に支配され、時には少数者が多数者に支配されるという相違があるのみである。

時とすると、これが等分されることがある。その場合には、イギリスの政府におけるように、各部が相互依存の関係にたつときと、ポーランドの政府におけるように、各部の権威が不完全ではあるが独立しているときとがある。後者の如き政体は悪い政体である。何となれば、この場合には政府に統一がなく、国家が脈絡を失うからである。

単純政府と混合政府とはいずれが優っているか? この問題は政治学者の間にかまびすしく論じられたものであるが、これに対しては、私が全ての政体の中でどれが最も優っているかという問に対してなしたと同じ回答をしなければならぬ。

単純政府は、それが単純であるというだけの理由で、それ自身において優っているけれども、執行部が十分に立法部に従属しないとき、換言すれば、政府と主権者との比が国民と政府との比よりも大きい時には政府を分割してこの割合を保つようにしなければならぬ。何故かというに、そうすれば、各部分を合せた全体の臣民に対する権威を減ずることなくして、それを分割したために各部分はいずれも主権者に対する力を弱めるからである。

立法部と行政部との不均衡は、また両者間に介在する官吏を設け、この官吏が政府は分割しないでそのままにしておき、ただ両部の均衡をはかって、それぞれの権利を支持せしめることによって防ぐことができる。この場合には政府は混合されているのではなくて調節されているのである。

これと反対の不便も、これと同じような方法で矯めることができる。即ち、政府があまりに放散している時には、執政官を設けて、政府の力を集中することができる。これは民主政治の国では常に行われていることである。第一の場合には、政府の力を弱めるために政府を分割し、第二の場合には政府の力を強めるために政府を分割するのである。何となれば極端に強い政府や極端に弱い政府は等しく単純政府において見出されるのであって、混合政体は政府の力を中位にするからである。